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誰がために 24にしおりをはさみました!
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誰がために 24
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ガラガラ、と開け放ったドアの向こうにあるのはいつも俺と神凪が昼御飯を食べている教室。
何1つ、変わらない。
先にいつもの席へ座った神凪は、入り口に立っている俺を見て何を言うわけでもなくただ待っている。
俺はその視線に従っていつもの席、神凪の前の席へと座った。
校舎内は誰もいないせいで静まり返っているのに、窓の外は野球部やサッカー部がグラウンドで走り回っている。
何もかもがいつもの光景なのに、落ち着かないのはなぜだろう。
「えっと、で、なんでここに来たの?」
学校に行こうと言われついて来たものの、なぜここに来たのかなんてわからない。
「……手」
「手?」
差し出された神凪の手に、意味がわからずともおずおずと自分の手を差し出すと、そのまま引かれてギュッと指が絡まった。
驚いて思わず引きそうになった手を、神凪は離しはしなかった。
「そ、颯佑……?」
まだ呼び慣れないその名。
「………」
けれど返ってこない応えに手にあった視線を上げると神凪と目があった。
神凪の瞳に映った自分が見える。
どくりと心臓が奇妙な音を立てて、どくどくと一気に早くなった。
なんだか、神凪の視線が、熱い。
俺だけを見ているその視線が、熱くて、優しい。
や、やばい。
だって、これは、これ以上は、ダメだと思った。
けれど、いくら力を込めて手を引いてもより一層強い力で握られてしまう。
「………亜沙樹」
するりと握っていない神凪の手が俺の頬を撫でた。
それだけで、速かった鼓動がもっとはやくなって、ばっくんばっくんいってる。
「なんて言えば1番いいのかわからないけど、」
絡み合う視線と互いの指先。
頬に触れる神凪の指先。
意識は全て神凪の目に集中してるけど、声は鮮明に響いてくる。
奇妙な空気だと思った。
「…亜沙樹、亜沙樹」
連なる俺の名に心のどこかで、その先は言わないでと叫んだ。
「そ、うすけ…、」
「好きだ」
「、そ、」
「お前が好きだ。好きで、好きで、愛おしくてしょうがない」
神凪の口から出た言葉を理解するのに時間がかかった。
届いた。
しっかり届いたはずなのに、頭の中で響き渡って、グルグルと勢いよく回ってる。
「え、あ………、え、…?」
好き?
違う、好きなのは俺の方だ。
だけど、言えなくて、言っちゃダメだって決めたばっかりなのに。
なんの冗談だろう。
「お前の作る弁当は美味しい。
お前が笑ったら嬉しい。
お前の隣は、心地いい」
全部、全部俺が感じていたことだ。
「もう会えないってのは嫌だな」
「………っ俺、」
俺も、好きだ。
会えないのなんて嫌だ。
ずっと、一緒にいたいのに、でも俺は一緒に入れる資格なんかないから。
「颯佑の気持ちは、嬉しい」
嬉しいなんてもんじゃない。
「でも俺は、」
「正直に言わないと許さない」
ぐっとまた手を握る力が強くなった。
そうだ。
神凪は、神凪の気持ちを言ってくれた。
俺は?俺は自分の気持ちに嘘ついてそれに応えるのか?そんなの、駄目だろ。
神凪にそんなことできない。できるわけない。
「お、俺、俺も、……好き、」
溢れてくる気持ちは言葉だけじゃ足りなくて、女子じゃないのに、次々と涙が頬を濡らしていった。
「颯佑のこと、好きで、会えなくなるの嫌だし……、ずっと一緒にいられたら嬉しい」
ずびっとブサイクに鼻をすする。
「でも、でも絶対俺なんかより…わぶっ」
気づけば神凪の腕の中だった。
あぁもう駄目だ、あったかい……。
「お前以外いらない」
暖かい、暖かい、暖かい、熱い。
神凪の口から紡がれる言葉すべてが俺の心を満たしていく。
「俺絶対迷惑かける。うざいし、嫌になると思う」
「あぁ」
「後悔するかも」
「しない」
そんなにはっきり言い切るなよ。
「絶対、夏樹さんよりいいって思わせる」
もう、俺の心は夏樹先輩にはないのに。
神凪には安心感がある。
薫を知らないこいつは、薫から取られることもない。夏樹さんがいることで薫は神凪を見ないから、だから、もう取られることはない。
「颯佑、約束してほしい」
「………?」
「振るのは絶対颯佑から」
「…………安心しろ」
「ん、?」
「それはないから」
ぎゅうっと腕に力が込められて、神凪と密着する。
しばらく一緒にいたから、神凪のは気の迷いかもしれない。けど、けど、信じてみても、いいだろ?
こんなに幸せなことはない。
だって、蓋をするはずだった思いは神凪から先に届けられて、もう手遅れだった自分の気持ちもぶちまけて、こうしてまた抱き合えるのに。
なのに、それが千切れてしまうなんて、誰も思うはずがない。
けれど結局あの呪文が俺を縛り付ける。
全てはそう、薫のために、俺は全部全部捨てなきゃならない。
たった1人の可愛い可愛い弟のために。
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