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誰がために 23
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かすかに音がする。
カタカタと遠くで音が聞こえてくる。
けれど意識はまだまどろみの中を抜けることはない。
「……………た、咲田」
「……ん、」
「咲田」
かすかに聞こえる俺を呼ぶ声は、とてつもなく優しい。
あぁいいな。
嬉しい、優しい、心地いい。
ふわりとおでこを撫でられている気がする。
「……ふっ」
それにたまらず頬が緩んだ。
「………起きないのか?」
「…まだ、寝るー」
「…………………、」
「ねーむーいーのーー」
声を出しながらぐりぐりと頭をすぐ近くにあった神凪の足に擦り付けた。
仕方ないな、と神凪は困ったように笑いながらため息をついた。
「咲田」
「…んー」
「…………、亜沙樹」
「うぅー」
「…………弱った」
本当に困ったというように、神凪は俺の髪を撫でる。
なんか、こう、幸せ、だ。
ほわほわする。
とかいううちに、俺の意識はだんだんと冴えてきて。
「起きろ、亜沙樹」
「………」
……あれ、今何してた俺。
撫でられている髪は相変わらず優しい。
「……起きたか?」
「か、か、か…かん、なぎ」
「おはよう、亜沙樹」
あ、あれ、いつの間に名前…。
「お、おは、おはよう、神凪」
それが、今朝の出来事。
「驚いた」
「………」
「どちらかというとしっかりしてると思ってたけど」
「………」
「寝起き、別人だな」
「いや、本当忘れてください、もう死ぬマジ死ぬ本当恥ずかしい」
顔から火が出るくらい熱くて、ソファの後ろで蹲っていた。
あんまり朝のことは覚えてない、けど、神凪の反応的に絶対変なことしたんだろう。
寝起きはいい方ではないということは自分では理解していたつもりだった。
けど別に他人に迷惑をかけるものでもないしときにしないでいたが、これは見直したほうがいいかもしれない。
「面白かった」
「やめろ……!」
恥ずかしすぎて思わず耳を塞いでさけんだ。
「こういうの、ギャップっていうのか?」
「違うから、俺そんなんじゃないから…!」
しかも完全に神凪は面白がってる……し。
いや、面白がってるのか?無表情なんだけど。
すっ、と俺の上に影ができ、俺は顔を上げた。
神凪は俺の前に膝をつき、俺を挟むように両手を後ろのソファの背についた。
「か、神凪」
「亜沙樹」
「そ、それ…」
いつから、どうしてそんな呼び方。
「呼んでいい?」
「い、いいけど」
「けど?」
「………また神凪だけずるい」
コツン、と合わせられたのは額。
合わさった部分が、熱い。
「颯佑」
「ん?」
「呼べば?」
低い声が、直接脳に響くようで、心地いい。
「そ、そう、すけ」
「……ん」
「颯佑」
「あぁ」
離れると決めたのに、なんで。
なんでまた1つ近くなってるんだろうか。
「と、友達で下の名前で呼ぶなんて初めてだ」
「……」
近すぎて逆にわからない神凪の表情が、雰囲気でふっと崩れるのがわかった。
「亜沙樹」
「なに?」
神凪が俺の名を呼ぶその声はすごく優しくて、暖かくて、それだけで嬉しくて。
「学校に行こう」
「、ん?」
今日は土曜のはず。
さすがに学校がある日に泊まりはまずいと思っていたが、ちょうど休日だったから泊まりを決めたこともある。
土曜は、学校は休み。
部活生ならともかく、俺も多分神凪も部活には入っていない。
「なんで?」
「あの教室がいい」
手を握って、立たされる。
わからない。
やっぱり、神凪の考えていることはわからない。
わからないけれど、きっと何か考えていることは確かなのだ。
その答えが知れるなら、俺はお前についていこう。
少しだけなら、許されるだろうから。
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