アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
君がために 7にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
君がために 7
-
プツンと切れた電話を持ったまま、颯佑に向き直った。
どうやらあのヒステリックな高い声は颯佑にまで届いていたようだ。
「あの、颯佑、……」
帰りたくないと、一緒にいたいと言ったはずなのに。
これで離れてしまえばなんだかもう会えない気がして不安でたまらない。
「…………あさ、また戻ってくるだろ?」
「………、うん、うん」
これはどちらかというと確信というより願望。
「決めた。俺、颯佑と離れるのこれで最後にする」
「……?」
「戻ってきたら、ずっと颯佑と一緒にいるから、だから……少しだけ行ってきます」
「あぁ」
名残惜しい空気を振り払って外に出て、見送ろうとした颯佑を拒否するように無理やり扉を閉めた。
そして走って、走って走って。
息が乱れるのが苦しいけれどそれでも走るのは薫のためじゃない。
早く、早く颯佑の所へ帰りたいから。
汗だくになりながら息を整える間もなく、到着した我が家の玄関を開けた。
「ただいま帰りました」
一瞬だけ玄関で足を止め息を吸い、ふっと顔を上げた瞬間に、薫の元へ行こうと決心したその瞬間に、
ーパンッ
「っ、」
左頬に感じた痛みと熱。
ジワジワと広がるそれと、目の前で手を振り上げたままでいる母親の姿から、やっと。
自分が打たれたのだと理解できた。
「何をしていたの」
「母さ……」
「答えなさい!」
「……………、人と、会っていました」
「薫は?ねぇ薫は?貴方自分が何したかわかってるの?」
「なにが、あったんですか」
視線を戻してそう尋ねた後、また先ほどと同じ場所に同じ痛みを感じた。
「薫のそばにいないでなにしてたのよ!
貴方のせいよ亜沙樹。貴方のせいで可愛い薫が。
なんで薫なのよ、貴方なら良かったのに…!」
いつからか。
そうあの俺を縛り付ける言葉を言われ始めた時から。
いや違う。
最近になって、颯佑と会って、この母親の薫への愛情は自分とは段違いなのだと知った。
薫になにがあったのかわからないけれど、ここまでこの母親が乱れているのだから軽いものではない、はず。
それを俺なら良かったなどと、双子の兄である俺なら良かったという母親に今までなかった心の軋みを感じた。
こんな痛み知らなかった。
むしろ知らない方が良かったのかもしれない。
泣きたくなるような心の痛みを振り払い、
崩れた母親を置いて俺は薫の部屋へ走った。
「薫………っ!」
母さんにとって可愛い子供は
俺にとって可愛い弟なのだ。
心配でないはずがない。
「あさ、にぃ?」
異常にかすれたその声に眉根を寄せた。
「薫……?なにが、あった?」
「…………階段から落ちちゃった」
正確には落とされちゃった、と弱々しく笑う薫を見て俺は首を振った。
「違う、違うだろ薫」
階段から落ちたにしては、怪我がない。
いつもと違うのは腫れ上がった瞼、掠れた声。
嫌な予感がして、寝ていた薫の布団を捲り、そのシャツを脱がせようとした。
「っやだっ、やだやめてっ!あさにぃ!!」
力一杯体を押され、数歩よろけながらもその力の弱さに倒れるまではいかなかった。
ボタンひとつ取っただけで見えた首筋の赤い痕に、背筋が凍る。
「薫、夏樹さん……だよな?」
「………」
その痕はあの人相手でついたものなんだよな?
そう問えば、キッと薫の目が俺を鋭く捉えた。
「………あさにぃの、せいだよ」
つり上がっていた薫の大きな瞳から、大きな涙が滴り落ちた。
「あさにぃがいなかったから、こんなことになったんだよ」
「………かおる、」
「僕を守るのはあさにぃの仕事でしょ?」
なのに、とかすれた声で大きく叫んだ。
「アイツの!颯佑のとこになんていくから!
僕は、あんな奴らに……っ!」
泣き叫ぶかおるに俺はなんて言えばいいのかわからなかった。
「あさにぃのせいだ!あさにぃなんて嫌い!
颯佑の所に行く、颯佑を好きなあさにぃなんて大っ嫌い!!!!!」
バシンッと呆然と立ちすくむ体に当たったのはかおるが投げた枕。
けれどそれを拾って持っていこうとすれば、震える体が目に入って足を止めてしまう。
「………俺の、せい…?」
小さく呟いた声は薫まで微かに届いていた。
「そう、あさにぃのせい。あさにぃのせいだよ。
あさにぃがそばにいなきゃ、僕、
ー死んじゃうから」
もう、どうすればいいのかなんてわからなかった。
俺が颯佑の所になんていったから。
薫を2番目にしたから。
颯佑を好きになってしまったから。
俺が守らなきゃならないはずの、俺の存在意義である薫に傷がついた。
母親から貴方のせいだと、
薫からあさにぃのせいだと。
全てが俺のせいな訳なんてないのに、ジャラジャラと勢いよく音を立てて。
『俺のせい』
その言葉がまた、前のものよりも強く俺を縛りつけた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
70 / 92