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君がために 8
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しばらく薫の前に立ちすくんでいると、ピコンッとメールの音がした。
「………」
誰からなんてわかりきってた。
だって俺の携帯に入っている連絡先なんて、薫と親と、冬樹さんと颯佑くらいだから。
けれど薫の前でそのメールを開くことができなくて、行き場のない手が宙にさまよった。
それを見つめ、静かに薫は言った。
「見れば?」
「………いや、」
「なんで?見れば?見て大好きな颯佑のとこ行けばいいじゃん。汚い弟なんて置いてさ」
「………ごめん」
「それなに?なにに対して謝ってるの?」
「薫、ごめん……ごめんな」
「……やめてよ…!、謝らないでよ」
謝っていると言っても、薫の顔なんて見れるわけがなかった。
うつむいて、自分の足先を見ながら何度も何度も謝ることしかできない。
「………ごめんあさにぃ、僕言い過ぎた。ちょっと気が動転してて、」
「いや、いいんだ。」
当たり前だ。
あんな事があって逆に冷静でなんていられない。
「………あさにぃ」
「あぁ」
「どこにも、行かないで。僕を1人にしないで」
「………あぁ」
そう頷いた瞬間、チラリと颯佑の顔が思い出された。けどそれを振り払って頷いてしまったことで俺は、一つを選ばざるを得なくなった。
颯佑と薫。
颯佑を選びたくて、選ぶつもりだったのに、俺を取り囲む全てが薫を選べと叫んでいる。
「ごめんあさにぃ、寝たい」
「………わかった」
静かに部屋から出てその隣にある自分の部屋へと入り扉を閉めた瞬間にズルズルと背中を扉に擦り付けながら座り込んだ。
颯佑、颯佑、颯佑。
会いたい。どうしようもなく颯佑に会いたい。
「あ、そうだメール」
先ほどは無視したメールを開くとその差出人は、案の定颯佑だった。
『 大丈夫か 』
一言だけそう書かれてあった。
たったそれだけのことに、颯佑はなにも知らないのに全部知ってて聞いてくれてるようでツンと鼻の奥が痛くなる
「っ、いっけね」
早く返信しようと、けれどなんてすらばいいのかわからなくて。
『 おう!全然大丈夫! 』
なんて送って、携帯を握りしめ頭を自分の膝に埋めた。
ブブッとまた携帯が震え、メールの受信を知らせる。
いつもはとてつもなく返信遅いくせに、なんでこんな時は早いんだよ。
気づかないで、いてくれよ。
『 なにがあった 』
『 なんにもないよ笑 』
極めて明るく返したつもりだったが、少し待っても返信はなかった。
あぁもう終わりかと少しだけ寂しくなったけれど、颯佑らしいと愛おしくもなる。
携帯を置こうとした瞬間に、ピリリリリッと携帯が揺れた。
「っえ、!?」
映し出された名前はさっきと変わらず神凪颯佑。
こんな、思いっきり鼻声で震える声を聞かせるわけにはいかなくて、渋っていたら一度電話が切れ、今度はすぐメールが来た。
『 出ろ 』
命令形だけどその中には心配と動揺が混じり合わさっている。
「口下手だなぁ」
そう笑っている間にもまた携帯は震えだす。
観念して携帯とり通話ボタンを押した。
「どしたー?」
『……………あさ』
「うん?」
『泣いてるのか』
「うーん」
『何があった』
「、いや、薫がね、階段から落ちたって、」
『あさ』
その声は強く低く、俺の声を遮った。
それがまた、俺の鼻を痛くした。
「……そ、すけ」
『……』
「…………、たい、……会いたい…っ」
こんなこと、颯佑に言ったって、泣き叫んだってなにもなりはしないのに。
『あさ、明日』
「……うん、また明日会えるから」
ー大丈夫。
ぐずっと鼻をすする音に颯佑は気づいているだろう。
半泣きの俺に颯佑は気づいているだろう。
けれど、心配という雰囲気は伝わったくるけれどそれ以上なにも言うことはない。
これがひどくありがたかった。
明日、明日になれば颯佑に会えると。
どこか落ち込んでしまった俺にはそれだけで、それだけが心の救いだった。
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