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命を賭してにしおりをはさみました!
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命を賭して
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心配そうに待っていたのは圭。あたかも忠犬のように、尻尾を振っているのが見えるのは俺だけだろうか。
どうもその興味は俺じゃなくて腕の中の天使にあるらしいけど。
「冬夜、その子……さっき倒れた子やん。知り合いやってん?」
「そう……だな。っていうか早く行くぞ。こんなところ、胸糞悪い」
早く出たい。こんな澱んだ空気の中にいたら、精神が滅入りそう。
「それでは参りましょうか。あまり、歓迎されてはいないようでございますが」
この階の唯一の出口、そこに立ちふさがったのは、神崎ただ1人。
なんとなく、俺達の行動が見えていることは知ってた。だから俺がここに来てウリエラに接触した時点でここに来るだろうことも分かってた。
まぁ、もっとぞろぞろと引き連れてくるかと思ったけれど、これは予想外。
神崎に部下がいないか、ここをよっぽど知られたくないのか。前者はありえないから、後者だろう。
「冬夜さん、ウリエラくんをこっちに渡してくれませんか?そうだ、交換しましょうか。ウリエラくんを渡してくれたら、皆無事に帰してあげます。どうですか?乗りません?」
その胡散臭い笑顔には、もう誰も騙されない。
人をおちょくるようなその軽薄な態度も、ますます俺をイラつかせる。
「誰が……っておい」
俺が口を開いたそのとき、横を颯爽と進む一つの影。
それはさっき謎の精神論に感化された彼だった。
「もうおやめになったら如何ですか、神様?」
神崎の顔が面白いくらいに引き攣る。
「なに、ミカ。暗いところに一緒にいたら心までお仲間になっちゃったわけ?」
「違います。私の心はただ貴方様のためだけに捧げたもの。他人に、ましてや魔族になど移りはしません」
「じゃあ、なんで!?それなら俺が言ったことに従ってればいいだろ!?それの何が問題なんだよ」
落ち着いたミカの様子とは対照的に、神崎は駄々をこねる子供のように見えた。
「神様、私は……」
「うるさい、黙れ!……もう、俺の言うことを聞かない玩具なんていらない。さっさと消えろ!」
そう吐き捨てた後に訪れるのは、沈黙。誰ひとりとして口を開けなかった。
これが……神崎?
今目の前にいるのはあの飄々とした詐欺師ではなくて、ただの子供。
それも、自分の思い通りにならなくて拗ねる子供だ。
「ほら、早く行けよ。そいつらと一緒にでも行ったら?」
パンッ
肉を打つ乾いた音が響く。
今まで立ったままだったミカが、頬を張った音。相手はもちろん、神崎。
「私が幼い頃から命を賭けようと誓ってきた主が、ここまで馬鹿だとは思っておりませんでした。貴方の命令はどれも聞いて差し上げるつもりでしたが……」
はぁ、と眉間を抑えたミカが、ツカツカと神崎に歩み寄る。あの規則的な足音を響かせて。
1歩1歩、元々近かった距離をさらに詰めていくと、柄にもなくピクリと肩を揺らす神崎。
「それだけは受け入れられません、主様」
膝まづいて神崎の手をとり、そして口を付けた。
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