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歌の6。いえいえ それはなりませぬにしおりをはさみました!
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歌の6。いえいえ それはなりませぬ
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いえいえ それはなりませぬ
「歌を忘れたカナリアは…」
妹達が好んで歌った童謡
鳥籠で美しい声で啼くカナリアは村で沢山飼われていた
「可愛いですね」
幼い弟は大切に可愛がり
餌を与えていたが
「何で啼かなくなってしまったの?」
このカナリアは死んでしまった
「きっと歌を忘れてしまったのでしょう」
優しい妹達は
弟に嘘をついた
「このカナリアは裏山に捨ててしまおう
」
村を潤す宝を産むあの山へ
村人の命を守る為に飼われたカナリア達は
歌わなくなれば
埋められる
「いいえ兄様、それは可哀想です」
「よお、ひでー面だな」
いつもの水色の袴に着替えた宮司に
巫女が笑いかける
「あなたに殴られたあのタコの顔よりはマシです」
何を仕出かしたのか
杖で殴られた神の顔を男が濡れたタオルで冷やす
「あっ!宮司さん!体は大丈夫?あの人達に犯されたんでしょう?早速お清めセックスしないと」
迫ろうとした神に
「このエロダコ!」
兄の杖を借りた宮司が殴る
「痛い…お兄さんと同じ殴りかた…」
「俺は諦めない…」
鳥籠のカナリアは逃がさない
翌日
「わ、可愛い!」
旅館の出入口に置かれた鳥籠を蒼太と誠史が覗く
「何でしょうか?この鳥」
「さあ?文鳥?大人しいね」
鳥は眠っているのか
じっとしている
「起きて~!」
「何やってんの?お前ら」
可愛いを連発する蒼太と誠史を
あきれた様子で眺める剛志と幸一
「これこれ!文鳥?何か可愛い鳥が居るんだ」
「一番可愛いのはうちの幸太郎だ」
剛志が鶏自慢をしながら覗きこむ
「文鳥?インコか?おら鳴け」
鳥籠をつつくもカナリアは啼かず
かつんっ
「弟の次は小動物をいじめてるのか?」
杖の音と共に
「ひいいっ!鬼ぃ様ーっ!」
巫女が現れる
「幸!いくらなんでも失礼だろ?」
誠史に叱られ
「俺に似てるんだよな?この人。俺も鬼か?こら!可愛い元教え子だぞ!」
蒼太から睨まれる
「お前らこの人の恐ろしさを知らねーからそんなことが言えるんだよ!それに鬼道!お前を可愛い教え子だとは思った事は一度もない!」
「おい…」
蒼太に怒鳴る幸一に巫女が話しかける
「そいつがどんな生徒だったかは知らないが、そいつの名前は今は蒼太だ。名字で呼ぶな」
「あ、すみません」
「だから生徒に嘗められるんだよお前」
「恩師に向かってお前とは何だ!お前とは!」
喧嘩を始めた幸一と蒼太に
「蒼太!興奮すると体に障るよ!」
誠史が宥める
「うちのバカ共がすみません」
剛志が謝罪する
「いやあ~!昨日あんたらが俺の弟にしでかした仕打ちに比べたら大したことはないさ!」
巫女は昨日の件でのみ激怒しているようで
「すみませんでしたっ!」
幸一と剛志と誠史は土下座する
「そんなに大切な弟なら首に縄を着けておけば良いのに…」
蒼太のみは平然としていて
「こら!あおるなバカ!」
「気にしないさ。尻の青い坊やの焼きもち何て可愛い物だ」
巫女はクククと笑う
「それよりこの文鳥ですが」
ムッとしたままの蒼太が尋ねる
「ああ、それは弟が可愛がっているカナリアだ」
「へー!カナリア」
「その子は啼きませんよ」
改めてカナリアを見ていると
猿渡も声をかける
「猿渡さん」
水と餌を取り替えながら話を続ける
「前は綺麗な声で、宮司さんや皆を楽しませていたらしいけど、急に啼かなくなって」
「獣医には見せないのですか?」
「近所の獣医は鳥のことは専門外って断られて。歌みたいになっちゃった」
「歌?」
「知らない?歌を忘れたカナリア」
「さあ?」
「ああ、あれだ。昔の童謡。歌を忘れたカナリアは裏山にすてられるとか…」
「鞭でぶたれるなんて歌詞もある。妹達が良く歌っていた」
「あ、長男なんだ」
「ああ、妹が二人に弟が一人。それより今日の予定はどうする?」
「あ、手焼きせんべいの実演販売を見たいです」
「そうか。じゃあこいつらに案内させる」
巫女の後ろから現れたのは
「あ…」
「……………」
「宮司さん…」
私服姿の宮司が無表情で現れる
「昨日は…その…」
幸一が謝罪しようとしたが
「昨日あんだけ痛い目に遭って懲りないな」
蒼太が喧嘩を仕掛ける
「こらーっ!」
「ぐ…兄貴と同じでムカツク…」
「おいこら!麗しのお兄様にムカツクとはなんだ!ムカツクとは!」
兄弟喧嘩に発展しそうになり
「はいはい!お客さんの前で喧嘩は止めようね」
猿渡が間に入り
「もうすぐ実演販売が始まるから会場にどうぞ」
蒼太の車イスを押す
「あ、蒼太の車イスは俺が押します」
誠史が押そうとするが
「いえ、お客さんが多いので蒼太さんだけ最前列にお連れします」
「そうですか、お願いします。蒼太、また後でね」
「はい。くれぐれも宮司と二人きりにならないで下さいね。トリィ、わかっているだろうけど、宮司に誠史さんを取られたらぶっ飛ばす!」
「脅すなボケ!そして誠史もこう言うときだけスルーかよ!」
「あはは!二人とも仲が良いのはわかるけど俺ら焼きもち焼いちゃうよ」
誠史が笑いながら蒼太にキスをする
「終わったらすぐに迎えに行くから」
「はい、旦那様。でも遅れたり浮気なんかしたら…」
「はい…気を付けます…」
「蒼太君、きつくない?」
最前列とはいえ
人の多さに猿渡が蒼太を心配する
「大丈夫です。それよりも良い匂い~!」
職人が馴れた手つきでせんべいを焼いていき
香ばしく焼けた米の香りに
蒼太はうっとりと眺める
「俺もせんべいになりたい…」
「あはは…面白い子だな」
猿渡は微笑む
「君もここで過ごせば良い」
「蒼太ってばあんなに夢中になって!」
蒼太が身を乗りだし
せんべいを見つめている姿を写真に納める
「詩織にも送ってあげよ!」
「詩織さんとは誰ですか?」
誠史の腕に自身の腕を絡め
覗きこむ
「俺の奥さん。美人だよ~!」
「きれいです」
スマホの待受の美女の写真
「君も可愛いよ」
自分の腕にすがり付く宮司の頭を撫でる
「でしたら俺も可愛がって下さい」
赤い舌を出し
誠史の頬を舐める
「俺も可愛く啼きますよ」
綺麗な声で啼くカナリアの様に
「しかし凄い人数だな」
「はぐれんなよ」
「分かってるよ。手を繋ごうか」
「人前では止めろよ!」
手を繋ごうとした幸一の腕を払い除ける
「しかし困ったな。誠史達とはぐれた」
「良いんじゃね?後で合流すれば良い。それよりさっきのカナリア」
「うん、啼かなくなったって可哀想だな」
「あれ、死んでる」
「死んでんの?教えてやれよ」
「宮司以外は皆知ってるだろ」
餌を食べないカナリアの為に毎日餌を替え
語りかける
「ガキの時同じことがあった。和臣のハムスターが動かなくなって…」
優しい誠史は和臣と共に餌をやり続けたが
「夏兄ちゃんが怒ってゴミ箱に捨てた」
匂いのきつくなったハムスターといつまでもハムスターを残したがる和臣の我が儘にイラついた
「誠史まで巻き込んで!」
誠史が間に入るも夏輝と和臣の喧嘩は止まず
「当時の宮司も夏兄ちゃんの味方で、和臣がペットを飼うのを禁止させたんだ」
「気持ちは分からなくはない」
通夜の晩
死んだ母親が生き返ってくるのではないかとずっと見守っていた
「お前はお母さんと弟だろう?ペットとは訳が違う」
「いや、弟の事は考えていなかった。ただ母親に帰ってきて欲しかった…」
「幸一…」
剛志が俯いた幸一に手を伸ばすも
「幸一?」
幸一は目の前から消えた
「酷いなあ兄さん。俺達の事は死んだままで良かったんだ」
「んぅ…」
自分の口を塞ぐ見知らぬ男
「お前…」
母親似の黒い瞳
「大きくなったでしょ?ここの皆のお陰だ」
「はぁ…いつまで閉じ込めておくんだか…」
鳥籠の中のカナリアを見やる男
随分前に死んで
土に帰ることも許されず
剥製にされ
宮司のためだけに存在し続ける
「歌は忘れた訳ではない…」
「もう歌わなくて良い。思い出さなくて良い」
ただ俺の為だけのあなたでいてくれれば良い
続く
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