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高3夏の憂鬱にしおりをはさみました!
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高3夏の憂鬱
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スムーズに進んでいた撮影が、ガヤガヤとし始めた。
ヘラヘラしていた松井も眉間にしわを寄せて、苛立ちをわかりやすく貧乏ゆすりをして伝えている。
「今日表紙にしてやるって話だったよね?
また遅刻?おたくのところどうなってんの」
松井に詰め寄られた男は遅刻してるモデルのマネージャーらしく、「本当に申し訳ございません!」と大きく頭を何度も何度も下げる。
「あのさぁ、そうやって謝れば良いと思ってる?何度目よって聞いてんの。なに、ちょっと売れるようになったらこれ?うちのおかげでうれるようになったんじゃないんですか。現場だけの話じゃなくてさ、印刷所とかこの先の何人の人に迷惑かけることになるかわかってる?社会人として遅刻するなとか最低限の話じゃない」
そこまで言わなくても良いのに。言ってることは正論なんだろうけど、相手も謝ってるし、あまりにもかわいそうだ。
周りのコソコソ話すスタッフの話を聞くと、モデルの子はこの撮影ギリギリに帰るスケジュールで海外に遊びに行っていたらしい。
飛行機が遅延してしまい、急いで向かっても間に合わないから先にマネージャーだけ謝りに来て時間を稼いでるとか。
モデルの子が悪いと思う。
そしてそんな子のマネージャーをしてるあの男の人がかわいそうだとか思わないのだろうか。
とは言え、プロの世界の話に口を出せるはずもなく、黙ってるしかできないんだけど。
「正直替えはいくらでもいるわけよ。最近見つけたこの2人とか、多分今回一枚載せるだけで人気簡単に奪えると思うけど」
くいっと、俺とルリを松井が顎で差す。
マネージャーの男は、相変わらず苦しそうな声で申し訳ございません。と繰り返してる。
その様子に、もう見放したかのようにため息を吐き捨て、目も合わさず野良犬でも払うかのように手をふる。
「もういいわ。俺、プロとしか仕事したくねーから。帰って。おたくの子はもう使わない。おい、スタイリストさんにこの2人準備させて」
おいおいおい、勘弁してくれ。
絶対やんねーっての。
ふざけんな、と口を開こうとした瞬間、マネージャーの男が床に頭を打ちつけた。
「どうか、あと3時間待ってください!!お願いします!!!ゆなが到着すれば必ず部数をあげる最高の写真を提供しますので!!」
初めてみる大人の土下座。
さすがの松井もたじろいだ。
「いやいやいや、土下座は違うでしょ。やめてくんない?」
「どうかお願いします!!2度とこのようなことがないよう徹底して努めますので!!」
「だからそれ何度目よって話じゃん。無理だってもう」
そんなやりとりが30分くらい続いて、ついに松井が折れた。
「あーーーもう、今回だけよ!?表紙はくれてやるけど、前年比150%超えなかったら本当にもう切るからね!」
「ご恩赦ありがとうございます!!必ず超えます!!」
イライラしたように松井は盛大に舌打ちをかまし、どかっ!椅子に腰掛けた。
それから2時間後、問題の女が半泣きで息を切らして入ってきて、マネージャーと2人で松井やスタッフに謝っていた。
てか、たいして可愛くもないし、華もない。
本当に売れてるのか?見たこともないけど。
つくづくあのマネージャーは可哀想だ。
けれど、やはり撮影が始まるとさっきまでの半泣きが嘘のように芸術作品のような写真が仕上がっていく。
彼女もやはりプロなんだ、と少し見直した。
マネージャーの男も隅っこから誇らしげに見ている。
「かっこいい...」
ポツリと呟くと、隣にいたルリもこくっと頷いた。
「あの子の実力を信じて怖い人に謝り続けたマネージャーさんもすごいよね...」
たしかに。
短気な俺には絶対にできないだろう。
松井はまだ不機嫌そうだったが、納得する出来だったのか、もうマネージャーにもモデルにもなにも言わなかった。
しかし最後の人も撮影が終わり、無事終了と思いきや、松井がお願いだから一枚取らせてよ。と言ってきた。
「無理だってばー」
「使わない!使わないから試しに一枚だけ!ね?」
ルリが困ったように、えー、と笑う。
さっきみたいにズバッと断らないのは、周りのスタッフの目だろう。
頼むから取らせて松井の機嫌を直してくれと訴えかけてきている。
いつもなら人のいいルリに変わって俺がハッキリ断るんだけど、俺はこの撮影をもっと見ていたいと思っていたし、ただでさえ綺麗なルリがどう化けるのか興味があった。
「...まっちゃんの期待に応えられるかわからないけど、今日急な職場体験を快諾してくれた恩もあるしね...いい?純ちゃん」
ルリのこの言葉に、わかりやすく松井がパァッと明るくなる。
どこからともなく安堵のため息が漏れ、張り付いていた現場はやっと緊張感が緩和された。
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