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「昴??」
目の見えない井端甫には、何故九十九昴が走り出したのか、何を追いかけたのか、わからなかった。
「甫、どうした?」
奥の厨房に居た向田篤志が井端甫の声に、カウンターへと姿を見せた。
店の客達は、他の客が何か忘れ物でもしたのだろうなどと口々に話している。毅一聡の一件を見ていた客は、謝りにでもいったのだろうと考えており、騒ぎになることはなかった。
「昴が、走って店を出て行っちゃったんだ。」
手に持ったタオルを握り締めて、嫌な予感に顔を顰める。
井端甫は今回、カウンターの中で情報収集を行って居た。そこに聞こえて来たのが、毅一聡のドスの効いた声と、水が地面を打つ音。
そして、普段失敗などすることの無い九十九昴の謝罪の言葉だった。
井端甫はすぐに、彼が酒をかけられたのだと判断し、タオルを掴んで九十九昴の元へ向かった。
しかし、そこに居たのは、目の見えない井端甫を気遣う普段の九十九昴ではなかった。
何かに引き寄せられる様に、井端甫の存在に気付かない。まるで、世界が切り離されてしまった様な、そんな感覚を覚えた。
「昴がどうした。」
個室で接客をして居た藤城悠も顔を出し、九十九昴に何かあったのかと、端正な顔立ちに不釣り合いな表情を浮かべた。
彼は一体何度、この様な思いをしているのだろう。九十九昴という、儚い結晶の様な存在を好いて、守って、それでも、幾度となく失いかけた。
その度に彼は心を痛め、この表情を浮かべる。九十九昴はそれを知っているかもしれない。彼の前ではいつも笑顔を見せ、強くある藤城悠は、この様な表情を見せたことは無いに違いない。
しかし、聡い九十九昴の事だ。見なくとも気付いているだろう。それでも、彼に心配をかけようとも、九十九昴は過去の為に動く。
それを藤城悠も知っているから、わかっているから、お互いを信じているから、今彼らはここにいる。
それでも
不安にならずには居られない
「昴が、何処かに行っちゃった…」
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