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二人の想いにしおりをはさみました!
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二人の想い
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日が暮れはじめてきたのが、窓から溢れるオレンジ色の明かりで分かった。まだ楓は玄関に膝を抱え座り込んだままでいると、アパートの外階段を上ってくる音が聞こえた。その足音はどんどんこちらに近づきピタリと自分の家の前で止まると、チャイム音と共にドアを叩く音が預けていた背中に響いた。
「楓っ!」
自分の名前を呼ぶ声が輝だと分かった瞬間、驚きと苦しさで声が出そうになり慌てて口元を押さえ息を殺した。
「楓……いないのか? いるなら開けて欲しい……。鞄、持ってきた。あと……ちゃんと話がしたい……」
この状況で何を話すと言うのだろう。会いたかったはずなのに、顔を合わせばもう終わりは見えることくらい分かる。これで最後なんて早すぎると楓は、背中で輝の声を聞きながらまた涙を流した。
「楓……本当にいないのか? いるなら開けて欲しい。話したいことがあるんだ。俺は……後悔したくないんだ……」
輝はどうしてもひとつだけ、楓に会って確かめたいことがあった。それは「泣いた理由」。都合のいい考えかもしれないが、わずかな望みがあるのならそれを捨てたくなかった。勘違いでもいい、どのみち終わるなら楓の気持ちを知ってから終わりたかった。何度ドアに思いをぶつけても、聞こえるのは辺りを走る車の音と虚しく響く自分の声だけ。
ーー本当にいないのか………。じゃあ今、どこにいるんだ……。
他を探すしかないのかと諦めて上ってきた階段の手すりに触れて下りようとしたその時、かすかに鍵が開く音を背中に感じた。慌ててもう一度楓の部屋へ戻り、ゆっくりとドアノブに手をかけると簡単に開いた。そこには靴を履いたまましゃがみ込み項垂れている楓がいて、夕暮れの明かりが小さな体を照らしたがドアが閉まると一気に二人は薄暗い世界に包まれた。
ひざまずき細い腕に優しく触れるとゆっくりと顔が上がり輝と目が合った瞬間、楓は唇を震わせ大粒の涙を流し泣きじゃくった。それだけでもう十分だ。何も言わなくても輝は、その涙だけで楓の気持ちに気づいてしまった。震えている体を引き寄せ強く抱きしめると温かさに安堵したのか、それとも他の意味があるのかさらに楓は子供のように大きな声を輝の胸の中に響かせ泣き続けた。
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