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伝統にしおりをはさみました!
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伝統
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僕が中学の時の文芸部は、学校創設以来ずっとある古い部活だった。
歴代の文芸部冊子『赤い青春』が、本棚にズラリと並んでいて、パソコンが流行りだした時から、デジタルで古いものを書き写して、保管していた。
『赤い青春』では、文芸部員は誰しも必ず原稿を出さないといけない。
僕が文芸部に入った理由なんて、特に無かったし、小説なんて書いたことなかったから、正直、初めの頃は失敗したな、と思っていた。
そもそも、『赤い青春』ってネーミングセンスが嫌だった。小っ恥ずかしい。
でも、何故か先輩たちは、その冊子をまるで古くからの友人を呼ぶように、『赤春(あかはる)』と呼んでいた。
先輩がそう呼ぶ理由を、僕が理解出来たのは、二年生に上がる頃だったと思う。
三年生にとって最後の作品を出す『赤い青春 三月号』で、僕は小っ恥ずかしいという思いが吹き飛んだ。
三年生が作り上げた作品が一つ一つ載っていて、とても感動的だった。何より感動したのは、最後の方にあった三年生全員で完成させた詩だった。
青い春で、人は青春と呼ぶ。
青は、未熟なものを意味する。
しかし、私たちは青いままなのだろうか。
いつまでも子ども扱いされ、
それに嫌気がさし、
早く大人になろうとしている。
赤は、成熟を意味する。
しかし、私たちは完全に大人になり切れているだろうか。
もう大人だと言われながら、
大人のように世の中を上手く回していけない自分に、
大人なしでは生きにくい世の中に嫌気がさし、
それでもいつまでも子どもではいられない。
赤い青春は、子どもでもあり、大人でもある私たちが、想いを込めて作ったものである。
今、私たちはこの赤春から旅立つ。
しかし、この赤春の精神は次の迷える若者たちが、
またその次の若者たちに伝えてくれるはずだ。
そう願っている。
これを読んで、僕が思ったのは、「くさいな」だった。凄く恥ずかしい文を書けたものだ。
でも、笑いながらも、僕はこの赤春が好きになったのだ。
ユキが入部した時、僕はこの詩を見せたのだが、ユキは普通に笑っただけで、多分僕みたいな思いはしてないと思う。
でもそれは、ユキが一年生だったからだ。
ユキが二年生になった時、ユキの文芸部にかける思いが変わったかどうかは定かではないが、少しだけ作風が変わったのを覚えている。
少なからず、その年の卒業生の作品に影響を受けたのだろう。
ユキが三年生になった後のことを僕は知らない。
その後、伝統が受け継がれているかもわからない。
たかが中学校の部活。
でも、僕にとって、今まで赤春に想いを託していた先輩たちにとって、大事な場所でもあった。
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