アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
その後
-
「ごめん、ガク。僕たちの二個下が誰も入らなかったんだ」
ガクが衝撃を受けたのが一発でわかった。
本当は、この話題は避けたかった。お互いに傷付くだけだから。
でも、本当はずっとガクに相談したかった気もした。
「僕たちの一つ下の後輩たち……覚えてる?そいつらが頑張ったんだけど、文化部だし、小説を書くってなると、難しいものがあったんだ」
ガクは何も話さない。
「でも、本当にただの噂だから、もしかしたら、入って今も続いてるかもしれないし……」
なんで、俺がこんなに弁解してるのだろうか。
「ガク……一個下の子たちがね、ガクたちの作品見て、『文芸部に入って良かった。赤春が好きだ』って言ってたよ。俺、その時、自分の事じゃないけど凄く嬉しかったんだよ」
そう言うと、ガクはニッコリと笑った。
「ユキ。」
「ん?」
「気を使ってくれて、ありがとう」
「え、うん」
「ユキも後輩たちと上手くやったんだって思って、嬉しかったよ。ユキ、僕としか喋ってなかったから、心配してたんだ」
「ガクとが一番話しやすかった」
「嬉しいよ。……それに、大丈夫だよ」
「何が?」
「きっと続いてる。ユキも僕も頑張ってたし。歴史も長いからそう簡単には終わらないよ。ほら、何だっけ?ユキのあの問題作」
「俺も続いていると思う。問題作って言うなよ」
ガクとこういう話をするのが好きだったのを思い出した。お互いの作品について話すこと。
「あ、そうだ。『鏡の中の魔物』」
「あー、あったね、そんなの」
俺が中学の時に赤春に載せた作品。
『鏡の中の魔物』
内容は、確か……
「鏡の中の自分に話しかけていくスタイルで、鏡の中の自分は今の自分に不利益なことしか言わなくて、今の自分の信頼をどんどん失っていって、いつかとんでもないことを鏡の中の自分が言い出して、今の自分が鏡を割るんだよね。そしたら、後々、鏡の中の自分が全て正しかったことがわかって、今の自分は涙を流すんだっけ?」
よく覚えていること……
「そして、自分は失ってから大事だったと気付くことがあるってことに気が付くんだよね」
「そこまで覚えていると逆に気持ち悪いし、その作品、俺の中で結構恥ずかしい思い出になってるから……」
ガクはカラカラと笑いながら、俺にお茶だと言ってコップを渡した。
俺はそのお茶を一気に飲み干した。
正直、中学の時に文芸部に入ったのは、ただ本を読んでるだけでいい部活だと思ったからだ。運動は出来たけど、わざわざ放課後に汗水流してやりたいと思う程には至らなかった。
運動部にも何度か仮入部という名の見学に行ったけど、入りたいと思う部活はなかった。
だから、一番最後に仮入部に行った文芸部に入ったのだ。
『赤い青春』の存在を知ったのはその後だ。
「鏡の中の魔物、はガクにしか好評じゃなかったよ」
「嫌だな。みんな後輩に良い作品書かれて嫉妬してたんだよ」
「えっ」
「問題作って、良い意味でも使われるでしょ?」
「まあ……えっ、じゃあ、俺あの時悩む必要無かったの?!」
「えっ、ユキが悩むことなんてあったの?」
「あったよ!ひどいなー」
不思議と中学の頃に戻れた気がした。
こうやってあの頃は、放課後どうしようもない話をして、本を読んで、本を書いて、お互いに読みあって、笑いあって。
楽しかったのかもしれない。
嫌だった苦しい思い出は、過ぎ去った後では思い出さないものなのかもしれない。
辛かったことも、苦しかったことも、あの頃はあったかもしれないけど、今では思い出せない。
だって、思い出したくない思い出っていうのは、どんどん更新されていくものだから。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
14 / 36