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春の章一 風光るにしおりをはさみました!
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春の章一 風光る
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「俺はね、こういう者です」
綾哉は懐から薄いアルミ製のケースを取り出し、一枚の紙切れを遊命に渡した。
「タカセアヤ…ヤ?」
「リョウヤって読むんだよ。ここにローマ字で書いてあるでしょ?」
綾哉が名刺を指差して言った。
「あ…本当だ。…代表取締役って社長? スーツなんて着てるから先生かと思った」
「社長だからスーツを着てるんだよ」
「でもさ、普通学校に社長なんていないじゃん?」
「そりゃそうだ。社長がこんなとこで油売ってちゃあな」
藍が笑いながら言った。
「藍のピアノが聴きたかったからね」
綾哉は落ち着いた声で話す。
スーツ姿でゆったりと座る様は生徒用の椅子でもどこか品格が漂っていた。
「…あ…ピアノ、もう弾かないんですか?」
遊命が躊躇いながら訊いた。
「聴きたい?」
椅子の背もたれに、肘を掛けながら藍が聞き返した。
「うん」
「何がいい?」
「さっきの」
「さっきのね」
藍は姿勢を正し、ピアノを弾き始めた。
初めの一音から魅了される。藍の華やかな容姿も相成って、遊命はあっという間に引き込まれていった。
「この曲、知ってるの?」
藍が尋ねた。
「うん。妹が家で弾いてるから」
「妹? かわいい?」
「俺よりでかいよ」
「へぇ…名前は?」
「璃青(リア)」
「妹のじゃなくて、君の」
「俺? 遊命」
「遊命は新入生?」
「うん」
「遊命」
綾哉が小さな声で呼んだ。
生徒用の椅子を差し、遊命に座るよう勧めた。
遊命は綾哉が座っている椅子と一対の机の上に、ぴょんと腰掛け、綾哉に微笑むと、綾哉も相槌のように口角を上げた。
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