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初夏、付き添いにしおりをはさみました!
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初夏、付き添い
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自分の担当する講義が終わると、常勤講師ではない瀬戸のその日の仕事も終わる。
帰りに部室棟にある天文学サークルの部屋を訪ねた。
窓際に人影。逆光のせいで顔はよく見えないが、すぐに誰かわかる。北野だ。
「瀬戸せんせー、また来たんだ?大方の部員よりずっと熱心ですよね」
沈みかけの夕陽を背に、無愛想に話しかけてきた。たしか所属は英文科のはずだが、瀬戸がこの部屋に来て一番遭遇率の高い生徒だった。天文学を専攻する他部員たちからも一目置かれている部長。
今日も、彼以外には誰も来ていない様子だ。
「ここには良い望遠鏡も、珍しい本も無いのに」
瀬戸が戸口のところに突っ立っていると、「入らないんですか」と目を細めて言った。
「ドア、ずっと開けっぱだと寒いんで…」
ごめんごめん、と中に入る。小さな望遠鏡の置いてある長机にそって並ぶ椅子の一つに腰掛けると、やっと北野は振り向いた。
「なんでこんなとこに来るのかな?って、いつも思います」
「別に…。気晴らし?」
ふうん、と自分で訊いておいて興味のなさげな男子学生を傍目に考える。
もしかすると、自分は彼を見に来ているのかもしれない。天文学に興味を持ち、未来のある若者の姿を。目の前の少年は天文学を専攻してすらいないが、何があるかはわからない。そんな風に思わせる若さが羨ましい。
まあ、自分もこの道の権威達と比べればまだまだ若造なのだが。
「邪魔なら、来ないようにするけど…」
それこそ別に、という風に北野が眉間にしわを寄せた。
「僕の部屋じゃないんで」
外が完全に暗くなった頃、瀬戸は窓際に寄って北野の横に腰掛けた。
見上げると、星空が広がっている。
ー祐樹も、この星空を見ているだろうか?
結局、数日経った今も祐樹からの返信は無い。
今でも自分が彼を怒らせたとは到底思えないが、ここまで来るとさすがに無視されているとしか考えられなかった。
いっそ、また前のようにどこかでばったり遭遇したい。近づいて、声をかけて。もし逃げようとしたら捕まえて、問いただしたい。
それこそ、本当に嫌われてしまうだろうな。
だが、それでも良いような気もする。このままなあなあになってしまう方が、よっぽど嫌だ。
おそらくそれなりに時間が経過したのだろう、北野が立ち上がった。
真っ暗な部室の中でも無駄のない動きで自分のカバンを持ち上げ、入り口まで行ってドアを開ける。
「僕は帰ります。鍵だけ、お願いしますね」
じゃ、と去ろうとする背中に慌てて声をかけて立ち上がる。
「待て、俺も帰るよ」
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