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想いにしおりをはさみました!
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想い
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せせらぎの聞こえる森の奥の川べりで、ガイザックは半裸で血に塗れた衣服を洗って干していた。
「ガイザック……」
低く響く声音に、かったるそうにガイザックは振り返り、声の主を認めひらっと手を振り返す。
上半身裸のままで、ゆっくりと声の主の元まで歩み寄る。
「ケイル、待ってたぜ」
ガイザックは先ほどまで一緒にいたルイツを帰すときに、ケイルを呼んでくるように言いつけたのである。
「旅に出ると……聞きました。何故です。何故一緒に……居てくれないんですか」
もごもごといいづらそうな口調で言葉を募るケイルを手招き、近くの岩の上にガイザックは腰を降ろした。
「国家呪術師を甘く見るな。王の死も、奴らは俺の居場所も直ぐに突き止めるだろう。その時俺は最優先で、あのルイツって子を守る」
静かな口調で言葉をつむぎつつ、ケイルの顔をじっと眺める。
「俺は、もうあの時のようには、お前も仲間も守ることができない」
「俺たちも、貴方に守ってもらうほど弱くは無い筈だ。貴方の事を俺たちが守ればいい話だ」
反論しようとするケイルを、ガイザックは首を横に振って取り合わずに、近くに置いておいた大剣を掴む。
「お前たちがするべきことは違うだろう。俺と一緒に居れば、必ず居場所を突き止められて襲われる。俺も大所帯でいれば身動きがとれない」
「ガイザック……」
すっかり夜もふけて輝く星空を見上げ、ガイザックはケイルの肩を強く掴んだ。
「俺が、この組織を立ち上げたのは、祖国を立て直したかったからだ。俺を守る為じゃない」
「……しかし……」
死んだと思っていた、命の恩人であり大切な人に漸く再会できたと思った瞬間に離れていくだなんてと思うとケイルはやるせない表情でガイザックを見返した。
貴方に返せるものがあるとしたら、組織を大きくして貴方の目指していたものを引き継ぐことだけだった。
「組織もろとも心中する気はねえよ。呪いを解いて、自由になったら此処に戻ってくる。その時、俺の助けになってくれ」
「……わかりました……、必ず戻って来てください」
祈るような気持ちで、ケイルはガイザックへと言葉を投げかける。
変わったと言っても、信念も強靭さも少しも変わらない。
ずっと、心から愛していた。そして、今も変わらない。
「誓おう。俺は、必ず自由を手に入れて、この国を立て直す。オマエたちと一緒に。だから、その日まで力を削がずに待っていてくれ」
大陸一の勇者は、掴んでいた大剣を天井に翳し、不敵な笑みを口元へと刻んだ。
空の下で、何度も勇猛に戦う姿を目の当たりにしてきた。
やっと、再び出会えたのだ。
ケイルは、ガイザックの背中へと手を回しぐっと抱きしめる。
「おかえりなさい、ガイザック」
ただいまの言葉に未だ答えを返せなかったのは、こころのどこかで彼の変化に戸惑っていたからだ。
やはり、彼は彼だった。
人としての尊厳を奪われても、尚、失われない信念の輝きに惹きつけられる。
どんなに貶められても消えない輝きはそこにあった。
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