アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
へし折った飴細工ep.8にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
へし折った飴細工ep.8
-
終わらない夢を見ていたいと思った。
それは、私だけが見ている夢。私があなたを取り込んで。
あなたを騒音ひしめく社会に残して、私はあなたを、「私が知っているあなた」を私の中に取り込んで、とこしえの眠りにつこうと思う。そうしたら、あなたは、私の知っているあなたは、少し非難がましい目と声を身に着けながら私の頭を撫でて、今朝染めたばかりの髪の毛を一掬いする。
「お前に付き合うさ」
あなたは案外ロマンチックに酔っているから。
ヒユウが廻る玉ねぎに考えを巡らせている頃、2階はあまり良好な雰囲気を醸成しているとは言い難かった。オウギの部屋は冷たく閉ざされ、ハルとマナビは隣室の爆弾、つまりオウギのことであるが、それを刺激しないように細心の注意を払わなければいけなかったのだ。好奇心が旺盛なマナビなんかは、新たな兄弟の姿を見たくて、またその話がハルとしたくてうずうずとしていたのだが、少しでも物音をたてれば隣を刺激してしまいそうで、よく動く口を今日ばかりは貝のようにぴったりと閉じていた。時たまに、ハルの方をみてなにか言いたげにしていたが、その度ごとにハルはマナビの耳を両手で覆って額にキスをした。そうして
「もう少し、な」
と、押し殺した声でなぐさめた。
ハルにだって、物音一つで咆哮が聞こえるような隣の獣に手をこまねいているのだが、いつまでも幼いつもりでいる弟分をなだめることで精いっぱいなのだ。早く姫谷か春日が来ればいいのに。そうしたら、暴れ出しかねないオウギを何とかしてくれるだろうし、腕の中でくたびれた様子のマナビのストレスを自分が晴らしてやることができる。
オウギが一体何のために、普段から堅い殻に棘までつけてのかは皆目見当がつかないのだが、どうせ知ったところでハルとマナビには関係ない。そう、関係ない。ハルはマナビだけがいればいいのだから。小さな独占欲。マナビのひしゃげて動かない足は、ハルが彼を俗世から解放するつもりで、独占した証だ。ハルがつぶしたマナビの細い足は、自分がいなくては、彼をどこにも運ばなくなってしまった。杖もない。彼が自力で移動する手段はずっと物置にしまったままの車いすだけ。それでいて、二階を自室にしている彼らは、文字通りいつも一緒であった。長くて急な階段をハルはマナビを背負って降りて来る。「けがをしたら危ないだろう」そういって、一人で行動させることはせず、ハルはマナビを常に腕の中にしまうし、マナビもまた、それに甘んじているのであった。
異様な関係。それでも姫谷は彼らを満足したような顔で見ているし、春日は姫谷がよいのであれば、という立ち位置を守っている。ただ、オウギだけは少しだけ強張った目をして「歪だ」と、口籠ってそれからは何も言わずに暗い目で見つめるようになった。
だから、ハルもオウギの癇癪や引きこもりについて、何か言うところがあるわけでない。目を向けずにことが過ぎ去るのを待つ。ただただ、面倒な獣の鎮静が済んでしまえばいい、それは自分たちのために。ハルはそれだけを願っていた。
一つだけあるイヤフォンを二人で共有して、白いシーツにくるまって互いの吐息を混じらせては、絡めた指先がいよいよ汗ばんでくる。
先に舌をだしたのは、たまらなくなったマナビの方。
ハルはそれを、ちょ、と吸って、それからマナビの上顎の部分を舌先でぞろりとなぞったが、身悶えを始めたので、舌を抜いた。物足りない様子を見せるマナビの口を自らの首筋に導く。
物音を立ててはいけない。それは鉄則だ。
マナビはあぐあぐと首の立て筋に甘噛みをしたり舐めたりして、そのあと頭をずらして鎖骨を標的にした。
痩身のハルには、「たくさん窪みがある」らしい。ハルの好きなところの一つだという。なかでも鎖骨は一番のお気に入りらしく、つうっと骨をなぞったり、真ん中のくぼみに舌を捩じ込んでくるくると舌先で遊んでは、はあっと熱い息を吹きかける。
慣れてしまえばこの行為に感じ入ることは無くなってしまった。ハルはぼんやりと、片耳から流れる音楽に思考を溶かして、弟の気が済むのを待つ。足を入れ替える振りをしてマナビの下半身を探ったが、どうやら今日は精処理をしてやる必要はないらしい。いつもは、マナビの気が済むまで放っておいて、最後に精器に口を添えてやるのだ。マナビ一人ではどうすることもできずに、気持ちよさと辛さで泣き出すから。
今日は口がさびしいだけだろう。
シーツ内に熱気がこもるけれども、部屋はひどく静かであった。限界まで膨らんだ風船のような限界性をもったオウギの部屋と、静謐で、それでもうるさいくらいに庇護欲や独占欲、色欲、色んな熱情を噴き出すハルとマナビの部屋。
二階は「歪さ」で包み込まれていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
12 / 12