アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
王冠の行方1にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
王冠の行方1
-
No side
_____また、退学だって。今年だけでもう100人は出てる
_____なんであんな奴が、会長になったんだよ
_____しっ!八神会長に聞かれたらただじゃすまないぞ
_____クソ。王冠さえあればすぐにでもあんな会長なんて退学にしてやるのに
【王冠のない王様。
王冠を再び手にするか隠された王冠を見つけ出さない限り
暴虐無人な八神も。________その八神を引きずり下ろした唯賀も。______ただの裸の王様。】
かつて、例外を否応なしに全てを
是とする王冠が存在した。
だが、その王冠は5年前に消え失せた。否、天宮晴の手によって葬られた。
都合の悪いものを消し去り
都合の良いものだけを残す、そんな理不尽な王冠だった。
「あの〝王冠〟は、多分、鶯谷先輩(あのひと)が持ってるはず。だから、簡単だよ人ひとり、退学にすることは。」
「へぇ。………それは、面白い話やな。」
昼休みのこと。
雪からその言葉を聞いた瑠夏の瞳孔が僅かに揺らめいた。
※
旧校舎、美術室。
端末に入っているアプリをタップすると
簡易的なマップ上に刺された、その場から動かない赤いピンを瑠夏は眺めていた。
「まだ、動いてへんみたいやな。」
時計の針は、夜の10時半。
寮の門限の30分前。
そして、現在、寮に佐藤蒼を連れ帰れていないのなら
タイムリミットだ。
_____ピロン、と。
瑠夏の端末へと届いたメールを開けば
案の定、雪から『鶯谷が旧校舎へと向かった』との連絡が届いた。
昼休みを除き放課後の間もずっと、鶯谷が雪の近くにいて佐藤蒼を連れてくる時間はなかった。
例え、鶯谷の目を掻い潜れたとしても、正体不明の存在である名谷はるかも警戒するのならば、誰にも気づかれない夜に佐藤蒼を連れ帰る必要があった。
だが、鶯谷は佐藤蒼の居場所を突き止めた。
寮の門限のシステム上、23時までに
寮に帰らなければ詰みだった。
寮の門限のシステムは、部屋の中にある機器に個々の生徒が23時までに毎日変わる暗証番号を入力すること。もしくは指紋を認証をして生徒が部屋に帰ったのか帰っていないのかを確認している。
そして、23時までに入力がなければ
確実に記録として残る。
その記録は寮監が管理している。が、その情報を非開示にする必要性はない。
つまり
「後、30分以内に、寮に帰って暗証番号の入力か指紋認証させる必要があるんやけど。………どう考えても、普通に連れ帰るのは無理やろな。」
鶯谷のように正体が分かればまだしも
正体のわからない雲隠れをしている人物を相手にしている中で、学園中の誰にも見つからず、寮に戻すことなど
最初から、不可能に近い。
瑠夏は、寮の部屋の中
動かないマップ上のピンを眺め続けていた時だった。
玄関先に、雪と佐藤蒼に扮した雪のストーカーが帰ってきた。
「随分、具合悪そうになってへん?雪のストーカーくんは。」
雪のストーカーは、まさに顔面蒼白という言葉が似合っていた。
「お、オレが、………………失敗し、て。あの人にバレましたっ!」
ビニール袋を片手に靴を脱いでいる雪も
あまり、いい表情とは到底言えなかった。
「何かヘマやらかしたん?」
「何故か、あの人がピンポイントで第一美術室にいるのかを聞いてきた。それで動揺した結果、勘づかれた。」
雪の青白い表情を見ながら、瑠夏は目を細める。
「……………………………………完全に見つかってた方が面白いんやけど、まぁ、このままいけば_____。」
眼鏡のフレーム越しのエメラルドグリーンの瞳が三日月に歪み、小さく呟いた声は、雪の耳には届いてはいない。
旧校舎、美術室。
23時まで、残り15分を切ったが
赤く刺されたピンは、未だ、動かない。
「安心してええよ、雪。大体、予想通りなんやから。言ったやろ、俺じゃない人間が新入生くんを迎えに行ってるんやから。」
生徒会広報。
根っからの快楽主義者。
常に笑顔でいながら、何を考えているか分からない。
おもちゃのように軽々と嘘を塗りたくり続ける道化。
瑠夏は生徒会会計と一見、同じタイプにみられるが
生徒会会計と生徒会広報の違いは、二つ存在する。
そのうちの一つは
〝生徒会会計に近づけば、天国を見た後に地獄を見る〟
〝生徒会広報に近づけば、別の地獄を見る〟ということ。
生徒会会計_____美波京_____の言動は、可愛げがある。
生徒会広報_____瑠夏_____の言動は、笑えないのだと、その地獄の光景を見てきた人々は口々にそう言った。
「そろそろ、第一美術室にいるあの新入生くんを連れ出した頃やろ」
未だ、赤いピンは________動かない。
※
荒谷新 side
『金髪ハーフくん。』
昼休み。
突然、停電の日に
雪さんといた人に呼びかけられた。
恐らく、俺のことを意味する言葉によって。
「俺、そんな名前じゃな」
「君のことが嫌いな子からの手紙預かっとるんよ。だから、渡しとくで。」
「え?……どういう意味?」
「そのままの意味やで。そういや、地味な見た目の子やったな。………あぁ、今は〝まっしろ〟になっとるけど。暗闇でも分かるくらいに。」
目の前の人の言葉を理解できないほど
物分かりは悪くないはず________だ、多分。
「ほな、渡したで。金髪ハーフくんのことが〝嫌いな子〟の手紙。んじゃ、適当によろしゅう頼むで。」
「今になって思うけど、わざとだよな。きっと。」
門限の30分前。
手紙の指定の第一美術室に俺は来た。
だけど
埃を被っている机に椅子、絵画に使ったのだろう絵の具にパレット、バケツ、筆_____と、散乱している部屋の中を隈なく探したけれど
この部屋に誰かがいる気配はない。
カチリ、カチリと刻む秒針の音が
見つからないことの焦燥感を駆り立ててくる。
【佐藤蒼を鶯谷彩雲が退学させたがっている。
23時前までに第一美術室から佐藤蒼を連れ戻すこと。】
カチリ、カチリ、カチリ。
副会長のつけてた腕時計もこんな感じだったなと
こんな時に、無関係なことを思い出す。
『荒谷くん。一つ、助言を。…………他者の言葉にはあまり耳を貸しすぎないことをオススメします。特に生徒会広報の言葉には。』
副会長に言われた助言が頭の片隅をよぎる。
『彼は、目的の為なら本当に何でもやってのけますから。』
荒谷は嫌な考えが頭の中を埋め尽くすのを遮るように左右に頭を振る。
そして、こうなったら旧校舎の隅から隅まで探してやろうと、第一美術室を飛び出した。
刻一刻と刻まれる時間が
22じ45分をさした時、第三美術室の方から大きな物音が響いて来た。その音のした方へ走り、第三美術室のドアノブに手をかけるが何故か扉に鍵がかかっていて開かない。
ガチャッ、ガチャッとドアノブを回すが
開く気配はない。
美術室の扉の上部、カーテンのかかる小窓の隙間から
ワインレッドのあの色を捉える。
退学にしたがっている人が
鍵のしまった教室にいる理由なんて______。
______ガシャンッ。
何かがわれるような強烈な音が教室の中から響く。
危険信号が頭の中で鳴った。
窓をしきる黒色のカーテンを引きちぎり
頭からカーテンを被って
勢いのまま扉を蹴破る。老朽化しているせいか
第一美術室の扉はいとも簡単に開かれた。
俺は、真っ先に入ってきた景色に目を見開いた。
思った通り派手派手しいワインレッドの髪を持つ男が
覆い被さられ下敷きにされている人物に視線を向ける。
「あか。」
閉じ切られた窓。灯りなんて外のちょっとした外灯だけ。
おまけに雨が降るほどの曇天模様。けれど、暗闇の中でも分かるほど煌めく赤色の瞳が俺を捉える。
昔、あやめに教えてもらった。
暗闇でも鮮やかに輝く瞳。
それはあの双子(春とあやめ)を表す特徴だった。
けど___________。
(何で、あの色は。春ではなくて………………。多分、あやめでもない。それなら、アレは________。)
「お前の知り合いか?
まぁ、誰でも構わねぇか。どうせ、お前は今日で退学するん、」
鶯谷が言葉を途切らせた。
鶯谷の下敷きになっていた人物が何かを呟くと
きらりと光る何かが鶯谷と赤い瞳を持つ人物の
間を通る。
恐らくさっきの大きな音を立てた要因となった割れた花瓶の破片。それを鶯谷に突きつけていた。
鶯谷は、ソレに対して特に驚いた様子もなかった。
その花瓶の破片を握る指先が見ていられないほど震えていたからだろう。
だけど、鶯谷はある一点を見つめて動かなくなった。
その動向を見ていた俺の動きも止まった。
鮮やかに輝いていた赤い瞳の片方が
紫色へと姿を変えたから。
そして________________。
震えるように揺れる紫色の瞳から
溢れた雫がポタリと頬を伝って落ちていく。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
194 / 195