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カイコウ.9にしおりをはさみました!
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カイコウ.9
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「おかえり」
ここ1週間で随分聞き慣れた挨拶に迎えられ、武川の部屋に入る。
「…………ただいま」
毎回なんだこれと思うのだが、今回ばかりはそれも気にならないほどにイライラしていた。
「で?今日のあれはなんだ」
………………武川が。
「なんだもクソもねぇ。会議室で話した通りだっつーの」
「なんでお前はなんも悪くねぇのに、悪く言われることに抵抗しない」
そういう武川の目は、やっぱり静かな怒りを含んでいる。
……なんでこいつが怒るんだよ、意味わかんねぇ。
面倒くさくなりそうで、さっさと風呂にでも入ろうと思ったのに、腕を掴まれてしまった。
武川を睨んでも、ひるむ様子はない。
「だいたいお前は、自分の悪い噂を、なんで全部放置するんだ。否定すればいいだろ」
「他の生徒会員から嫌われてる、噂の張本人が否定して、何になんだよ。っつーか、てめぇには関係ねぇだろ」
これで話は終わりだと、手を振りほどこうとしたのだが。
「お前が、悪く言われてるのは、嫌なんだよ!」
武川は俺の手を一層強く掴んで、そう叫んだ。
「…………は?」
「噂なんか信じて、お前のこと毛嫌いしてた俺がこんなこと言うなんて、虫が良すぎるだろうけど、でも嫌なんだよ!」
「……べつに、てめぇに害があるわけでもねぇのに?」
「害があるとかないとかの問題じゃねーよ。誰だって、自分の仲間の悪口なんて、聞きたくねぇだろ!」
勢いよくそういった割に、言い終わると武川は少し頬を赤く染めて、俺から視線を逸らした。
「とにかくっ!そういうことだ!だから、むやみやたらと汚名をかぶろうとすんな」
恥ずかしいことをさらっと言っておいて、照れているらしい。
流れる微妙な空気が、気まずい。
……だから、こいつはいつもやりにくいんだよ。
「…………はぁ、わかったよ。気を付ける」
まぁ、そもそも手遅れなくらい、俺の評判は最悪だと思うけどな。
そこでふと思い出した。
「あ、あと、明日からバイト再開するから」
「はぁ?!お前なぁ……!」
「伸也も戻ってきたし、大丈夫だろ」
「…………ハァァ。どうせ、止めても行くんだろ。けど、まだしばらくはここに泊まれよ」
「…………」
まだ続くのか、とそう思ったが、余計なことを言ってバイトまで無しにされても困る。
「…………わかったよ」
そのまま、今度こそ風呂に行こうとすると。
「……今度は、絶対無理すんなよ」
その声は、想像以上に深刻で。
思わず武川を凝視してしまう。
「お前、あんなに弱っても誰にも頼らねぇみたいだからな。なんかあったら、次は絶対俺に言え」
武川は、真剣な目でそう言い切ってから、漸く腕を離した。
…………"なんかあったら"、絶対お前、気付くだろうが。
反射的に、そう、言いそうになって。
なんだそれ。
自分で自分の思考に動揺した。
まるで、あいつが俺に関心を持ってて当たり前みたいな。
いつのまにか、そんな考え方が染み付いていたことに気付いて。
その日は寝るまでずっと、胸がざわざわして落ち着かなかった。
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