アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
カイコウ.8
-
あれから、生徒会室に行けば、言葉通り伸也がいるようになって。
武川はあまりいい顔をしなかったものの、芝山と光毅はなんだか満足気で。
伸也が帰ってきたことで、さらに賑やかになった生徒会室は、暖かい、気がした。
ーーーーそして迎えた、体育祭会議当日。
会議室では。
「へー、仕事してないって聞いてたけど、こういうところには、ちゃんと顔を出すんですね」
「仕事してるアピール?やな感じ〜」
「おい、お前ら静かにしろ」
向けられる、悪意。
「ほんと、会長はお気楽でいいよな」
ーーーー勿論、俺に対して。
「それはっ」
隣で伸也が声を上げようとするのを、片手で制した。
「いいからほっとけ。大体あんなの前からだろ」
そういうと、伸也は傷ついたような顔をする。
「…………ハァ、俺はあの程度でどうこう思う程繊細じゃねぇ。王子様が辛気臭い面してんじゃねぇよ」
そういうと、ハッとしたような顔をして、いつもの"王子様"顔に戻った。
それでいい、と思う。
どうせ俺の体裁なんて、もはや傷付く余地もない。
そのせいで伸也の体裁が傷付けることのほうが、余程馬鹿げている。
「それでは、いまから体育祭会議を始めます」
ちょうどそこで、会議がはじまった。
「………からは、以上です。」
「では次、生徒会」
「……はい、ではまず、総合的なプログラムについてなのですが……」
隣でスラスラと喋る伸也をみて、一安心する。
会議では副長が喋るのが慣例であるため、一任している。
流れを把握しきれるか心配していたのだが、このぶんだと大丈夫そうだ。
しかしたった二日間でよくここまで情報を叩き込んだものだと、感心していると。
「あ、すみません、今の会計報告について、ひとつ質問があるんですけど、5日前に出した訂正って、ちゃんと反映されてますか?」
「……ッ」
その質問に、伸也が凍りついたのがわかった。
それはそうだ。
伸也が記憶したのは、"完成データ"であって、そのプロセスは頭にない。
なにも言わない伸也に、ほかのメンバーのあいだで騒めきがはしる。
「失礼します」
その言葉で、自分に注目が集まるのがわかった。
「その訂正は、先程お話しさせていただいた会計案に反映しています。副会長はその際、別案件で席を外していたのですが、共有し忘れていました」
「なんだ、そういうことか」
「納得。副会長が答えられないなんて、変だと思った」
「大事なことくらい、ちゃんと共有しとけよな」
広がる別の種類のざわめきを尻目に、席に着いた。
伸也から、視線を感じるが、無視する。
「静粛に。私語はつつしむようにお願いします」
そういった武川もまた、鋭い瞳でこちらを睨んでいたが、それもまた素知らぬ顔を突き通した。
結局その後は、特になにもなく、体育祭会議は無事幕を閉じた。
「おい、さっきの、どういうことだ」
会議が終わるやいなや、こっちにすっとんできた、武川。
「どうもこうも、俺の不手際だ。進行を妨げて悪かったな」
「そんなわけ…!」
おそらく、"ないだろ"と続くだろう口元を、おさえつけた。
「生徒会の、問題だ」
言外に風紀の領分ではない、と、そう告げる。
風紀委員を2人も借りておいて、散々な言い分であることは百も承知だ。
けれどここで騒ぎ立てて責任の所在を明らかにしたところで、特にメリットがあるとも思えない。
「………なんで、あんなこと」
そこにぽつりと響いたのは、伸也の声で。
「別に、事実を述べたまでだが?」
どこか張り詰め始めた空気に、蜘蛛の子を散らすように、会議室から人が出て行くのを、なんとなく目で追った。
………きっと、
"会長の不手際で、副会長が迷惑を被っていた"
"会長は情報の共有すらできてないない"
"副会長も風紀委員長も、いい加減愛想をつかしている"
そんな噂が、次は流れるんだろう。忙しないことだ。
まわりにほかの誰もいなくなったのを見てから、武川の口から手を離した。
「……直近の訂正だ、その辺りも念のため言っときゃよかったんだ。だから、共有漏れなのは事実だ。これ以上ぐちぐち言うんじゃねぇよ」
だから、これでおわり。と、そのつもりだったのに。
「なんで、お前がそこまでする必要があんだよ。こいつの自業自得だろ」
「……ッ、そうだ、お前が代わりに悪く言われてたじゃねぇか」
良いと言っているのに2人はまだ食い下がってきて、いい加減面倒くさくなってくる。
「……別にいい」
思ったよりも投げやりな声がでた。
「「は?」」
「どうせ噂が何個か増えるだけだ」
「けどっ!」
俺たち3人以外いなくなった教室の、時計を見つめる。
……あと8分で、授業か。
「どうせ噂が何個増えたところで、傷つきようもないだろ。何も変わんねぇよ」
事実を告げただけなのに、2人は何故か傷ついたような顔をしていた。
「……ほら、いくぞ。授業はじまる」
その表情から逃げるように背を向け、教室に向けて歩き出した。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
28 / 125