アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
カイコウ.7
-
伸也はそのまま、片手で目元をおおう。
そのまましばらく黙って、ため息をひとつ。
そして、ようやくかちあった瞳は、いつになくまっすぐ俺を射抜いた。
「…………俺は」
「……?」
「お前に、ずっと嫉妬してた。ほんとは、どっかでわかってたんだ、お前が嫌な奴じゃねぇってことぐらい」
「…………!?」
まさか伸也からそんな言葉が出てくるとは思わず、柄にもなく狼狽える。
「ずっと、お前の足元にも及ばない、自分が惨めで、お前を落とすような、理由が欲しかったんだろうな。だから、あんな、くだらない噂を信じて、幸いとばかりにお前のこと嫌った。………………ほんとに、ダッセェな」
そう言うと、伸也はおもむろに上着を脱いだ。
「は?お前なにしてっ?!」
バサリ。
そして、その上着は俺に向かって投げられて。
「…………顔色、わるい。俺はお前みたいに貧弱じゃねぇからな。着とけ。あと」
…………わるかった。
そう、ちいさく呟いた伸也は、気まずげに顔を逸らす。
「………貧弱って、てめぇ、俺より身長低いだろうが」
「んなもん、誤差だろ。そもそも俺の方がお前より筋肉あるしな」
「そりゃ、俺はてめぇと違って、不良じゃねぇからな」
「……っとに、むかつくやつだな。」
以前と同じようで、全く違うやりとり。
こいつと、こんなに穏やかな気持ちで会話するのは、初めてかもしれない。
「…………じゃあ、行くか」
「は?」
「悪いと思ってんなら、仕事してもらわねぇとな」
「……でも」
「うるせぇ、でももクソもあるか。今までの分もしっかり働け」
それとも、転校生の元に戻るか?
意趣返しにそういうと、想像以上に罰の悪い顔をする、伸也。
「……はぁ、冗談だ。そんな顔すんじゃねぇ。で、くんのか?こねぇのか?」
「……いく」
「じゃあ、行くぞ。とっとと、立て。
…………あと、ひとつ」
「……なんだよ」
「べつに、お前はダサくねぇだろ。これまで只管一生懸命やってたってことだろ。自己評価が低すぎんだよ。
嫌いな俺の顔色まで気付くのだって、そう簡単なことじゃねぇだろ。
……お前のことは、まだあんましらねぇけど、おれはお前のそういうところ、尊敬してる」
一気にそうまくし立ててから、なんだかとてつもなく気恥ずかしい事を言ったような気がして、髪をかき乱した。
……なんだこれ、俺のキャラじゃねぇっつうの。
ちらりと伸也を横目で伺うと、瞳がこぼれ落ちそうなくらいに、目を見開いている。
こころなしか、その頬も赤い気がした。
「……っ、くそ恥ずいこと、いってんじゃねぇよ。
あと、俺は別にお前のこと、嫌いなわけじゃ、ねぇから。
…………クソッ、先行くからな!」
最後はヤケクソのように叫んで、伸也は屋上から消えていった。
バタン、と扉が閉まる音を、呆けながら聞く。
「あーーー、もう、ほんっと、くそ恥ずいな……」
2人して、屋上でなにやってんだか。
けれど、屋上に来る前よりも、気持ちはずっと晴れやかで。
……柴山に、なんか礼しないとな。
晴れ渡った空を見て、そう思った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
27 / 125