アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
憂鬱なクーベルチュール⑧ にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
BL Land「2014 Valentine」Tour{増刊特集}
憂鬱なクーベルチュール⑧
-
「うん、あのな。あの日、あんなことまでした。…めちゃめちゃ後悔した、だから、」
別れよう?
そう続くのかと思って仮面の下でぎゅっと目を閉じる。
「ごめん」
「は…あ?あの、ええと??」
どんな顔をしているのが知りたくてピカチュウの顎をつまみ上げようとしたら、すごい勢いでその手を掴まれた。
「だから!だめなんだって。俺、木崎見たらそれだけでダメになる。緊張して喋れないのもある。けど自分で自分が抑えられなくなって、毎回暴走だ。いくらなんでもあれはない」
抑える?抑えるって何を??
「俺さ?何にも喋んない加賀美と一緒にいるのも好きだよ?前みたいに、たまにでいいから一緒に帰ってじゃあな、ってそれだけでいい」
「だからそれだけじゃ済まないんだって言ってる」
じわじわと頬が熱くなってくる。俺まだ好きでいていいの??
「それだけって?…キス、とかしたい、よ??」
はあ、と大きなため息が聞こえる。あれ、やっぱ俺外しちゃった??
「それだからダメなんだって。考えてもみろよ、好きだって言う前からキスして、電車の中で押し倒しかけて、トイレ連れ込んだ挙句あんなことまでして。木崎が止めてくれなくて、自分では止まらなくて、俺もう自分でどうすりゃいいかわからない」
「止めなくて、いいじゃん」
「…いい訳ないだろう。あんなの知ってもう我慢なんてできねぇし、狂ったみたいにひとりでしたし、今日ももう少し抑えられる自信あったのに、ちくしょぅ、」
何だ、求めてる気持ちはおんなじだったんだ。それにしても俺が止めないから避けまくるだなんていくらなんでもわかりにくすぎるよ、加賀美。俺がヤケになって浮気するとかそういう発想は…ないんだな。お互いがべた惚れしてることだけは確かに体で確かめ合ったんだった。
思わず苦笑が洩れてしまう。
「ねえ、俺のこと好き?」
「ああ」
「どれくらい?」
「自分を見失ってしまうくらいには。おかげで勉強は死に物狂いでしたし、くたくたになるまで体いじめて去年に比べたら体力も随分ついた。そこまでしてもまだちらつく。人間って誘惑には弱いってつくづく思い知らされたよ」
「そんなに俺としたの、よかった?」
「溺れたいくらいにな。でもそれじゃダメだろう?ふたりで溺れたら、何も手がつかなくなる。木崎がいない教室に一秒だっていられなかったさ、多分」
「…じゃあ、もうしない?」
好きなのにしないっておかしくない?両思いのはずなのに、何でこんなお互い片思いの遠恋みたいになっちゃってんの??
「しない。自分に自信がつくまでは」
「えー、キスもぉ~?」
「だってお前さ、キスで終われる自信あるか?」
ない。全くもってない。
「えぇ~、いつまで~??したいぃ~」
「お互いちゃんと勉強してさ、大学行ってバイトして家出て自立して、落ち着いて出来るようになるまで、しない」
「長いよ!そんなに我慢出来ない!!」
「でも木崎は我慢出来ないからって俺以外とあんなことはしないだろ?出来ないよな??」
そりゃあね。うーん、そこはちゃんと通じ合っている訳ね??
かああ、とますます顔が赤くなる。
お面があってヨカッタ。こんな顔、見せられない。
それにお面がなかったら、確かにきっとこんなに冷静に話してなんていられない。
「…しないけど。でもひどい。こんなのかぶせられて。そんなに悪者顔なの、俺?」
「俺にとっては。かなり凶悪」
「ひっで。…じゃあさ、ピカチュウにキスしてよ」
「…は!?」
「それにひとりで悩んでひとりで全部勝手に決めて、加賀美は独りよがりすぎる。俺のこと好きなら好きってそれくらいはちゃんと…言ってくれなくちゃ。はい、ちゃんとして?しなかったらお面取ってこっちから…!」
するよ、と言い終わる前にきゅうっとおでことか、はみ出した顎とにお面が押さえつけられる感触がした。
そう、隔てる障害がないと止まらないくらいに俺はいつだって加賀美を求めてる。
それは加賀美もきっと同じ。思いを伝え合っただけでも、こんなに体が熱く燃え始めているのだから。
心のガードを取り去れば、きっとお互いに溶ろけて混じり合ってしまう。
それは熱くて純度の高い、クーベルチュールのように。
いつかチョコレートの海に漕ぎ出して思う存分、溺れよう。
薄い被膜の向こうには、溶け出す情熱が待っている。
おわり。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
17 / 42