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60
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全くとんだ困ったちゃんだわ、と瑠璃条は一声放つ。
「で、でも…っ!!っていうか、楠田さんを追い込んだのなら佐々先輩の方が!!」
「はい、言い訳しない~!!」
だけれど、まあ佐々元部長も可哀想な人なのかもね、瑠璃条のぼやきに、後輩は大仰に顔を
顰める。
「…佐々先輩に同情の余地はない気がしますが。」
「はいはい。アンタは楠田チャンバカだから、仕方ないわよね。」
瑠璃条は小さく苦笑して、話を再開する。
「…ニュースでもよく取り上げられているけれど、実際に世の中は就職氷河期なの。大学四年生は大半が、リクルートスーツという甲冑を着た足軽とみなしていいわね。」
彼らにとって、現代は乱世よ、と瑠璃条は宣う。
「敗戦続きで身ぐるみ剥がされて、膝を折った若者は一体何をすると思う??」
はい、榎野君、と食べかけの串先を向けられた後輩は、気難しげに眉を寄せる。
「り…履歴書の見直し。」
ブッブー、と嫌に再現度の高い効果音を口にして、瑠璃条は正解を口にする。
「天を仰ぐのよ、神様ってね…。」
まあ冗談はさておき、と結ばれて、榎野はかっくりと肩を落とす。
「現実から目を背けたい反動で、身の丈にあわない幻想を夢見ても、おかしくはないでしょう。どこにも雇用されないから自分はダメだって、命を投げ出す人もいるし。…自分を粗末にするよりは、建設的な考え方よ。今の、佐々元部長は。おそらく、根っからのドリーマーに変身しちゃったのよ。」
数年間、時を共にしてきたバンドのメンツで、プロになりたい。
「聞くところによると、今度のリサイタルはとんでもないビッグチャンスなんですって。何でも、地元大学の有名音楽サークルが出演予定だったけど、インフルエンザでほぼ壊滅状態。これじゃまともな演奏は無理だろって話で、佐々元部長のところに依頼が来たらしいわ。」
対する榎野は、忌々しげに片拳を卓上に振り下ろす。威嚇する犬そっくりに彼は唸る。
「ええい、鬱陶しい!!夢を追うんなら、佐々先輩が一人でやればいいんです。どうして楠田さんを…あの人を巻き込もうとするんだ!!」
「バンドだから、運命共同体とでも思っているんじゃない??」
「畜生っ!!」
前髪をかきあげ、全身から怒気を発する後輩に、瑠璃条は問をぶつける。
「…んで、アンタはこれから楠田ちゃんにどうしてもらいたいわけ??佐々元部長が持ってきたリサイタル、参加して欲しいの??欲しくないの??…というか、楠田チャン自身とアンタはどうする気??」
立て続けに言われ、榎野は束の間、俯いて沈黙する。が、ややあって、彼はぽつぽつと語りだす。
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