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Childish?-3(完)
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急にバームクーヘンや紅茶が現実味を帯びてきた。
でもこれで箱ティッシュだったら恥ずかしいな。
「おめでとうございま~す!!」
カランカランカラン。
法被を羽織ったおじさんが取り出したのはただの封筒だった。
ん?
これが引換券で、コシヒカリ屋さんに自分たちで交換しに行くってこと?
「2等、和懐石ディナー大当たりです」
えーっ!?
完全に上位はないって思い込んでたから、この状況について行けてない。
だってピンクだよ?
赤でも黄色でもないんだよ?
なのに2等!?
信じられなくてシロの方を振り向いたら「やったな」って頭を撫でてくれた。
「こちらが招待券です」
後ろも詰まってるし、何だかよく分からないまま封筒を受け取って次の人に場所を空ける。
「この近くのホテルみたいだな。どんなとこかちょっと見てくか?」
「うん」
和懐石ディナーのお店が入っているホテルは、ショッピングモールを出て少し歩いたところにあった。
「ここ!?」
「みたいだな」
和懐石ディナーと言うだけあってある程度格式張った場所なんだろうなと覚悟していたけど、いざ目の前に聳え立つ建物を見たら急にお腹らへんがキュッとしてくる。
ちゃんとしたホテルのレストランなんて、家族では何回かあるけど友達同士では一度も行った事がない。
「シロは」
「ん?」
「シロはホテルのレストラン子供だけで行った事ある?」
ホテルも見届けたところで家への道を辿りながらシロの顔を見上げる。
「うーん、そうだなぁ。沢井流の付き合いで悠夜兄さんやら他の兄弟子やらに何度か連れて行かれたかな」
だよね。
俺とそう変わらない年なのにシロはしっかり大人をやっている。
もちろん、まだ高校生なんだからシロみたくどっぷり大人の世界に浸かりきっている方が稀なんだけど。
「やっぱりさ」
「ん?」
シロの後ろ姿に向かって投げ掛けた俺の微かな呟きを聞き逃さないのは、いつも道場で子供たちの相手をしてるからなのかな。
今日は何だかシロが遠い。
俺とシロの間に越えられない段差が降ってわいたかのように現れた。
俺が気付いてなかっただけで、ずっとずっと前からその段差はあったのかもしれないけど。
今日は何故だかそれが際立って高く見えるんだ。
「やっぱりシロにこの券あげるから悠夜おじちゃんとでも行ってきてよ」
「何で? あ、まさか食べららないものがあるのか?」
シロは「○か?」「○か?」と、チケットに同封された圧しなを見ながら訊いてくれるけど、そんなんじゃないんだ。
「苦手な食べ物あったら俺が食べてやるから大丈夫だよ」
「別に……食べられないやつないし」
「じゃあ何だ? トンカツが入ってないから逝きたくないのか?」
そりゃあおかみさんのトンカツは好きだけど、和懐石にトンカツが入ってないってだけで断ったりしないし。
「うーん、お手上げだ」
降参するから教えてくれと懇願されてしぶしぶ口を割った。
「……だって、着てく服とかないし」
「は? お前俺と違ってお洒落な私服いっぱい持ってるだろ?」
「でも、ホテルの和懐石に着てくやつは持ってない」
足下のちっちゃな石ころを蹴っ飛ばして口を尖らせる。
「和懐石だからって特に身構える必要ないんだよ。悠夜兄さんだっていつもカジュアルな格好で来てるからな」
悠夜おじちゃんは、中身はあんなんだけどお洒落だもん。
「あ、そうそう。ここの和食、半個室だから周りの目も気にならないぞ。虎太郎なんか道着で来てたしな」
そうなの? 道着でOKなんだ、和懐石。
そんなに敷居が低いのならちょっとだけ行ってみてもいい気がしてきた。
そんな俺の心の傾きを察知したのかシロが畳み掛ける。
「葵琉とこうしてちゃんとした店でデートするのは初めてだから楽しみだな」
デート。
今日だってデートっていえばデートなんだけど、改まったデートって言われると何かドキドキする。
「一緒に行ってくれるだろ?」
「うん」
大人のデートってやつをしたらシロとのあいだにある段差もちょっとは埋まってくれるかな?
(完)
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