アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
小鳥が弟になるまで21にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
小鳥が弟になるまで21
-
病院に着き、窓口で姫子の名前を出すと、救命病棟へと通された。
手術中のランプが着いた部屋の前に、八仁と姫子のマネージャーの姿。
泣きじゃくるマネージャーを見て、最悪の事態が頭をよぎる。
「二人の容態は!?」
走ってきたからだけが原因ではない激しい動悸に襲われながら、意を決して八仁に問いかける。
「小鳥君が手術中だ。背中に深い傷を負っていて、出血が酷いらしい。」
幸い輸血は順調に行われているという八仁の言葉に、少しばかり気持ちが落ち着いた。
だが、だったらこの状況に納得できない点がでてくる。
重い空気をまとう八仁。泣きじゃくる姫子のマネージャー。
小鳥の手術は順調なのに…。
いや、納得できないなんてことはない。尊の頭の中には、すでにこの状況が示す答えがでていた。が、そうでなければ良いと願いつつ再度八仁に問い掛ける。
「…姫ちゃんは?」
聞いた瞬間、マネージャーが更に涙を溢れさせた。堪えきれない嗚咽が、静かな病院の廊下に響く。
そして、たっぷり間をあけて、重いため息を吐いてから八仁は言った。
「病院に運ばれた時には手遅れだった。」
一瞬、息をするのも忘れて、ただ呆然と立ち尽くす。
姫子は死んだ。
八仁の言葉が表すのは、つまりはそういう事で。
驚きばかりが沸き上がって、不思議と悲しいとは思えない。まだ、そこまで感情が追い付いていけない。
死んだと言われた所で、少しも実感がわかなかった。
だから、今は姫子の事は考えず、ただ小鳥の無事をひたすらに願おう。
手術室の前に置かれた椅子に腰掛け、ずっと目の前の扉が開かれるのを待つ。
手術が終わるまでの間、事故について八仁から説明があった。
姫子と小鳥は旅行に出かけるところだったらしい。
「姫子は今日から3日間オフでね、小鳥君との旅行をすごく楽しみにしていたんだよ。」
言われてみれば、八仁が預かった姫子達の所持品の中に、大きなスーツケースがあった。
姫子のお気に入りのハンドバックからは、付箋がたくさん貼られた旅行本が覗いている。
小鳥とあちこち巡ろうと、子供のようにはしゃぐ姫子の姿が目に浮かぶ。
「タクシーで駅に向かう途中、居眠り運転のトラックが突っ込んで来たんだそうだ。小鳥君とタクシーの運転手は意識不明の重体、姫子は、救急隊が来たときには、もう息がなかったらしい。」
泣きっぱなしのマネージャーとは違い、八仁は落ち着いて事故について語る。
だが表情は固く、姫子の死に相当なダメージを受けている事が一見して分かる。
いつも掴み所がなく何を考えているのか分からない父親が、これほどまでにはっきりと落ち込むのを見るのは、もしかしたら初めてかもしれない。
無理もない。八仁は、姫子を娘のように可愛がり、仕事でも特別目を掛けていた。
尊も、仲の良かった姫子の死にショックを受けてはいる。だが今、頭の中は小鳥の事だけで占められていた。
小鳥が死ななくて良かった。
無事に手術が終わりますように。
小鳥が目を覚まして、姫子が死んだと知ったらどう思うだろう。
姫子が居なくなって、これから小鳥はどうなるのだろうか。
*****
事故から5日が経った。
小鳥の手術は無事に終わり、タクシーの運転手も一命をとりとめた。
二人とも意識はまだ戻っていないものの、もう命の危険はないということだった。
姫子の事故はすぐに公になり、新聞やニュース番組で大々的に報道された。
もともと前評判が高かったなか、皮肉にも姫子の死が更に話題を呼び、彼女の初主演ドラマは、1話目から記録に残る数字を叩き出した。
姫子の葬儀は小鳥不在のまま、八仁が取り仕切って行われた。
葬儀は、ごく僅かの姫子と親しい人間しか呼ばれず、ひっそりとしたものだった。
棺に横たわる姫子を見た時、どこかで嘘のように思っていた彼女の死を、ようやく実感できた。
そして彼女は骨になってしまった。
小鳥が目を覚ましても、もう姫子はどこにも居ない。
骨だけを見せられて、小鳥は姫子の死を納得出来るのだろうか。
病室でベッドの傍らに腰掛け、目を覚まさない小鳥の頭をそっと撫でながら、そんな事ばかり考えた。
穏やかな寝顔の小鳥。目を覚ましたら、きっとこんな顔はしていられない。
それでも…
「俺は早くお前に起きてほしい。こんな事言ったら、お前は俺を酷い奴って思うか?」
返事が返ってくることのない小鳥の頭を、気がすむまで撫で続けた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
32 / 233