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暴君の失態8にしおりをはさみました!
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暴君の失態8
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その日、清峰尊の機嫌は明らかに悪かった。
「ちょっと静ちゃん、尊どうしたのょ!?」
「何か、まわりにブリザードが吹き荒れてるんだけど!!」
仕事の打ち合わせの席、静は、隣に座った薫と翠から小声で詰め寄られていた。
この双子とは、数年前軽井沢で知り合って以来、何度か一緒に仕事をしている。
今回もスタイリストとして打ち合わせに参加しているのだが、とんでもなく不機嫌なオーラを放つ尊に竦み上がっている。
クライアントが遅れていて会議室にはまだ静達4人だけなのを良いことに、尊は苛立ちをいっさい隠さず、部屋の中はピリピリとした空気で満ちていた。
「俺も詳しくは聞いてない…ていうか、怖くて聞けねーんだけど、どうもことりんと喧嘩したっぽい。」
それはもう険しい顔をして携帯を操作している尊を刺激しないよう、声を潜めて双子に説明する。
「喧嘩!?チョット尊何やらかしたのよ!?」
「小鳥ちゃん、可哀想に…」
「やっぱ、そーゆう反応になるよなぁ。」
喧嘩と聞いて、すぐさま尊が悪いと決めつけてかかった二人の反応に、静はしみじみと頷いた。
「当たり前じゃない!絶対尊が悪いに決まってるわよ!」
力強く薫が言い切る。
「だよなだよなっ!俺もそー思ってさ、お前何したんだよって尊に突っ込んだら、思いっきりデコ叩かれた!酷くねぇ!?」
「おいこらお前ら、聞こえてるぞ。」
気持ちが高ぶってつい声が大きくなっていたらしく、にっこりと黒い笑顔を貼り付けた尊の手がこちらへ伸ばされる。
「痛ーってぇ!!」
「「ぎゃんッ!!」」
もれなく3人とも、尊に額を叩かれた。
暴力反対と騒ぎ立てたい所だが、氷点下の空気をまとった尊に睨まれ、もう何も言うまいと口をつぐむ。
双子も静と同じことを思ったのか、手のひらで口元を覆って声を出さないよう蓋をしていた。
不機嫌オーラ駄々もれの尊だったが、クライアントが到着するなりきっちり態度を切り換えた。
その変わり身の完璧さは流石だと感心する。
誰もが見惚れるような爽やか笑顔で話す目の前の男は、さっき静達を容赦なくひっぱたいたのと本当に同一人物だろうか。
尊はかつてモデルとして活躍していたが、俳優の方が向いていたんじゃないかと思う。
「それでは、今日の打ち合わせはここまでで。ありがとうございました。」
2時間程の話し合いは順調に進み、にこやかに挨拶して去っていく相手を笑顔で見送ると、尊はまた急激に不機嫌さを顕にした。
心なしか、さっきよりも機嫌が悪化している気がする。
「静ちゃん、あれなんとかしてよ!」
「無理無理!俺もう叩かれたくねぇもん!」
「お願い!こんなんじゃ怖くて仕事できないぃー!!」
「俺だって怖い!!」
薫と翠に左右から挟まれ泣きつかれるも、静だって泣きたい。
というか既に半泣きだ。
「そんな賑やかな色の頭してるのに意気地がないわねぇ!」
「そーよそーよ!そんだけ派手な頭してるんだから、男らしく俺が何とかしてやるくらいの事言いなさいよ!!」
「頭の色は関係なくねぇ!?」
双子の連携プレー でよく分からない所を責められぎゃあぎゃあ騒いでいると、結局また尊に叩かれた。
理不尽だ。
しかし、これだけ何度も叩かれると、何やら少し慣れてくる。
もう叩かれるのを覚悟で状況の改善、すなわち尊と小鳥の仲直りの為に動いてやろうではないか。
というか、静自身の為に動かざるを得ない。
助はともかく、こんな不機嫌だだ漏れ状態の尊と聖が顔を合わせれば、聖の性格上揉めること間違いなしだ。
そうなれば、事務所の中に苛々男が二人。静の心労も2倍。
それは断固阻止したい。
「なあ尊?」
「あぁ゛?」
返事のしかたからしてもう怖い。けれど、負けない。
薫と翠と別れ、打ち合わせをしたスタジオを後にして事務所に戻る道すがら、意を決して尊に小鳥との喧嘩について尋ねる。
「何が原因でことりんと喧嘩したんだよ?」
「それが分かればこんなに苛々してねぇよ。」
「原因不明なのか?んなの、直接ことりんに聞けばいいじゃん。」
「聞こうとしたら部屋に閉じ籠られたんだよ。」
始終仏頂面を崩さず、刺々しい口調で尊が話す。
「ちなみに、理由に心当りは?」
そう聞けば、尊が忌々しげに顔をしかめる。その表情で、静は何となく悟った。
「あぁ、有りすぎて分かんないのか。」
思わず心の声がポロリと口から出てしまい、またしても尊に叩かれた。
痛い痛いと喚く静を無視して、尊はさっさと話をまとめにかかる。
「そう言う訳だから、俺は一旦家に帰ってから事務所行くわ。」
朝は時間がなくてまともに話ができなかったが、今度こそ小鳥が怒っている理由を突き止めるのだと尊が言う。
「そっか。じゃーさ、俺も一緒にことりんのとこ行ってやるよ。」
「何でだよ。ついてくんな。」
心底迷惑そうな顔で尊に拒否されるが、静はそれくらいではめげない。
「だって、お前だけで会いに行っても、また部屋に立て籠られるかもしんねーじゃん。そうなった時、俺がことりんに会いたくて来たって言えば、ことりん部屋から出てきてくれんだろ?」
律儀な小鳥のことだ。わざわざ静が小鳥に会いたくて訪ねてきたとなれば、きっと顔を見せてくれるだろう。
最近静は営業であちこち飛び回っていて、小鳥と会っていない。そろそろ会いたいと思っていたのでちょうど良い。
「よし決まりー!」
尊からそれ以上反対の言葉がなかったので、勝手に尊の家に付いていくことを決定する。
清峰家へと到着して、静は勢いよく玄関を開け放った。
「ことりーん!」
中へ入るなり小鳥に呼び掛けるも、室内は静まり返ったまま。
「…小鳥の靴がない。」
尊が背後で呟いたかと思えば、静を押し退けリビングに向かって進んでいく。
あぁ、何だかとても嫌な予感がしてきた。
そして、見事予感は的中。
リビングには、小鳥からの伝言らしきメモを握りしめて尊が固まっていた。
そろりとメモを覗き見れば、
“アクアの家にしばらく家出する。”
と、何とも小鳥らしい、簡潔な文面。
家出するのに、行き先をしっかり書く辺りが律儀で、さすが小鳥といった感じだ。
まあ、行き先を告げずに家出なんてされた日には尊は発狂するだろうが。いや、その前に即行でGPSを使って発見されるか。
それにしても、あの尊大好きな小鳥が家出するなんて、本当にこの暴君は何をやらかしたんだ。
とりあえずもはや静一人では手に負えそうにないので、助にSOSとlineを送った。
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