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「‥稔‥さんっ」
「永久?」
「っ!‥稔さっ」
「永久!どうした!?」
シャッという音と共にカーテンの向こうから現れた稔さんは、俺の涙を見て慌てて駆け寄ってきてくれる。
ベッドに座り顔を覗き込む目と目が絡む。
「頭‥痛いか?」
「ち、違ッ」
「‥どうした」
するりと。
頬を撫でる手が優しくて涙がまた一粒零れ落ちた。
「稔さっ‥居なくっ‥なったかとっ」
ふわりと。
腕が伸びてきて稔さんの香りに包まれる。
「居るだろ?」
「っ‥呼んだっのに」
「ん?」
「何回も呼んだのにっ‥起きたら‥っ‥居ないからっ」
「‥ごめん」
謝らないで欲しい。
眉毛を下げて困ったような顔をしないで欲しい。
我が儘な俺の言葉に反応しなくていい。
振り回されなくていいから。
優しくしなくていいから‥
じゃないとオレ‥このままずっと
アンタの腕の中に居られるなんて、そんな勘違いをしてしまう
投げ出していい
俺が泣きたい時、側に居てくれなくっていいんだ
「稔‥さっ」
「ん?」
「‥稔さんっ」
「うん」
強く俺を抱き締めるこの温もりを‥俺は手放してしまえない。
「帰りたい‥」
「もう少し待って」
「‥稔さん」
「うん」
「稔さん‥」
「点滴終わるまで、こうしてよう」
「‥‥稔さん」
「大丈夫、すぐ終わるよ‥永久」
「‥」
背中を抱き締め頭を撫でてくれる‥稔さんは大人で、俺はこんなにも子供だ。
袴田先生ではなく、稔さんと呼ぶようになったのはいつからだったろう‥
最近なんかじゃない‥もっと前から。
学校では先生
二人きりの時は稔さん
先生と呼ぶ時、心の中に渦巻く物を感じ始めたのはいつからだったか。
稔さんと呼ぶ時、素の自分でいられると感じ始めたのはいつからだったか。
「先生‥」
「ん?」
「‥稔さん」
「永久?」
稔さんは出会ったその日から俺の事を永久と呼んだ
入学式の日。
クラス担任の発表がされて初めての出席を取った時から。確か名前と顔の確認をするから呼んだら手上げて返事しろって‥。
『氷室壱ー』
『はーいっ!』
『おー‥入学早々金髪かー』
『似合ってるってよく言われます!』
『高校デビューか?』
『地毛です!』
『ほー、なるほど。
このクラスには嘘吐きがいるらしい。みんな気をつけるように。』
『え゙!ちょ、センセーッ』
『次ー‥中村永久』
『‥はい』
『元気ないなー永久。そして凄い名前だ』
『よく言われます』
『えいきゅうでとわ。良い名前じゃないか』
『‥』
『中村って確か女子にも居たよな‥あーいたいた。じゃあ永久は永久だな』
『‥』
『はい次ー』
鮮明に思い出せるよ。
俺の名前が良い名前だなんて何回言われてきたかも分かんない程のお決まりパターン。
なのにアンタ、他の奴らと違って瞼を伏せてまるで愛おしむように笑うから目が離せなかった。
自己紹介。
中学の時桃は目をキラキラ輝かせて俺の名前を呼んだし、壱は出席をとる前に俺と桃の前に立ちはだかった後、名前を強引に聞いてきて桃と2人で盛り上がってたっけ。
「なんで‥永久って呼ぶの?」
稔さんの肩に頭を預けたまま目頭に溜まる涙が零れ落ちそうになった。
「永久は永久だろ?」
「‥」
アンタはあの時と同じ事を言うんだな。
あの時‥永久は永久だなって言った時から変な奴だと思ってた。
だってそうだろ?
アンタその前から俺の事永久って呼んでた。
「中村なんて‥どこにでもある名字で呼ぶより、良い名前があるんだ。」
「‥」
「俺は永久の名前を見た時、コイツは名前で呼びたいと思ったよ。何度でも‥口に出して呼びたいと思った」
「‥」
「見ただけで胸が暖かくなるこんな名前、そうは居ない」
溜まった涙が目頭から流れ出す。
涙は稔さんの服を濡らしていくのに、この人はいつだってそうだ。
濡れる服なんかより
自分の事より
俺が壊れないように優しくそっと前髪へ口付ける。
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