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53にしおりをはさみました!
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53
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良い天気とはこの事だ。
青い空に雲は一つも無く、太陽は温かく光を届け、ふわりと頬を撫でる風は心地良い。
目を閉じても‥真っ暗闇じゃない
目を開ければ‥
「一年‥経ったんだな。
久しぶり、母さん‥父さん」
「‥」
「ごめん。一年間来れなくて‥ごめん」
「‥」
一周忌は何の問題もなく執り行われた。
一年前と同じ場所で同じ制服を来て。
その後
料理が振る舞われ解散。
桃と壱も手伝いをしてくれて凄く感謝をしている。
爺ちゃんと婆ちゃんとも話しをしていて‥みんな笑ってた
笑ってたよ。
「俺‥もう二年生になったよ。早いのか遅いのか分かんない。沢山‥心配も迷惑もかけて‥それでもやっぱり‥寂しいよ」
やっと一年だ。
全身の感覚が無くなるようなあの渦巻くような気持ちから‥やっと一年。
寂しくて怖くて、永久に抜け出せないようなそんな気持ちと戦って‥まだ一年しか経ってない。
「結婚記念日‥おめでとう‥」
みんなと別れてから、もう一度‥1人で墓石の前に戻って来た。
聞いてるかも分からないのに話したい事だらけで。離れがたくて‥
もし聞いてくれてても一方的な身勝手な俺の言葉を‥どう受け止めてるかなんて聞く事も出来ない。
「なあ‥俺、本当はあの日一緒に行きたかったよ。学校で行けなかったけど、プレゼントも用意してたんだ‥」
線香の匂いがまだ残る墓石の前にラッピングされた箱をそっと置く。
包み紙は少しよれていて、一年という渡せなかった月日を思わせた。
「帰ってきたら渡そうと思ってた。中身は‥そっちで見てよ。気に入ってくれたらいいけど‥」
あの日
一緒に行かなかった事を後悔した
渡せなかったプレゼントを握り締めて後悔した
もう見れない笑顔に後悔した
「俺さ‥行ってみたいよ。母さんと父さんが行けなかった場所‥行ってみたい」
「‥」
「代わりに旅行‥行ってさ、お土産‥買って来るから。」
「‥」
「すぐには無理だけど‥いつか必ず‥必ず行って来るから。」
「‥」
「だから‥だからさ。」
「‥」
「もう一回‥もう一回だけでいいから。‥会いたいよっ」
ボロボロと流れ落ちる涙は降り始めた雨のようにポタポタと石の上に形を作る。
これが全てだ
もう一度会えたなら‥
これが‥一年かけて辿り着いた俺の全て。
両親の死を受け止められなかった俺が一年かけて進んだ先。
「会いたいよっ、もう一回‥母さんと、父さんにっ」
一年‥
思い出が日に日に薄れていくのが分かる。
顔も声もいつかは、はっきりと思い出せない程薄れる日が来るのかもしれない。
そうやってこの悲しみも寂しさも消えていくのかもしれない。
忘れていく未来が
薄れていく過去が
許せない程たまらなく憎い
薄情な奴だと思うだろうか
いつか忘れていく事を‥悲しむだろうか
今の俺は‥
いずれ必ず来るであろう、忘れて行く事すら受け止める自分がたまらなく悲しく拒絶する。
「‥っう‥っ」
仕方の無い事を仕方が無いとまだ受け入れたくない
いくら話しかけたって
いくら想ったって
返って来る言葉はもう無いけれど‥
「っ‥」
温かい太陽の光をも拒絶するように震える体は芯までが冷えていくようでガクリと膝から崩れ落ちた
止まらない涙が止まる頃
落ちた雫が乾く頃
この世界は一体どんな形になってるんだろうか
死を受け入れた
こんなにも寂しい
悲しい
虚無を‥
握り締め
包み込み
ただただ青い空を‥見上げた
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