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episode.93 囁きにしおりをはさみました!
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episode.93 囁き
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※自傷・流血の描写あります。
※恋がかなり取り乱しています。
〜琉side〜
撮影が終わって、終わりの被った琉と翔也は一緒に帰宅することにした。
時刻は19時を少し過ぎた頃だった。
「……あ、紘さんから、着信入ってた。」
着信履歴の時間は1時間ほど前だった。
「……俺も。何かあったんだ。」
「メールで折り返してくれって入ってるからかけてみる。」
琉は急いで紘に電話をかける。
3コールほどで紘が出た。
「もしもし。」
『遅かったな……もうまずいことになってる。』
「どうしたんです?」
『上原明希が、烏沢邸に拘束されてる。』
琉の心臓はドクン、ドクン、と音を立て始める。
『父上がおそらく、恋に上原明希を助ける代わりに何かをしろと、条件を出しているはずだ。急いで恋の所在を確認しろ。上原明希の様子に何か変化があればまた連絡する。今は薬で眠らされているだけだ。』
「わかった。」
琉は電話を切ってすぐ、恋に電話をかける。
今日は19時までファミレスでアルバイトだったはず。
もうスマホを見た頃だろう。
「……つながらない……!」
「どうしたんだ?」
「……明希くんが、烏沢邸に拘束された。恋を脅すつもりだ。明希くんは薬で眠らされてるらしい。」
「恋くんに電話繋がらなかったの?!」
「つながらない。」
琉と翔也は足早に帰路を急ぐ。
幸いにも今日の撮影現場は恋のバイト先から近かった。
「すみません、青木恋はもう帰りましたか?」
店長らしき男にそう聞くと、20分ほど前に店を出たという。
今日は少し早上がりだったらしく、19時前にはバイトが終わったそうだ。
「あ……そういえば、だいぶ青ざめていたので、少し休んで行けと声をかけたんですが、帰らなきゃ、と言ってフラフラと帰ってしまったんです。」
「ありがとうございます。」
琉は手短にお礼を言って店を出る。
「どうだった?」
「たぶん家だ。まずい。本当にやばいかもしれない。急ぐぞ。」
「わかった。」
2人はひたすら走った。
走って走って、家に着いた時、扉は開け放されていた。
「恋!恋!!恋!!!!」
琉は大声で叫びながら部屋に入っていく。
浴室やトイレにはおらず、リビングのドアを思い切り開けた。
薄暗い部屋には血だらけになり、座り込んでいる恋がいた。
「……死ね、ない……死ねない、死ねない……!」
狂ったように包丁で腕を切りつける恋。
それを見て琉の心臓は痛いほどドクドクと鳴る。
「恋!!恋!!!落ち着け!!恋!!!」
肩をゆすってそう叫べば、恋がビクッと肩を震わせて切りつけるのをやめた。
「……あかつ、さ……」
恋の目からは涙が溢れてきて、血まみれになった包丁はリビングの床に落ちた。
「明希、あ、きが……あき、が……」
恋は泣きながらそういう。
琉はぎゅっと恋を抱きしめた。
「大丈夫、大丈夫だから。」
「うぁ、お、れが……死なないと、明希、が……!」
開いたままのスマホには、明希が拘束され、眠らされている写真と、お前が死ねば解放してやる、というメッセージ。
恋は自分の命と明希を天秤にかけ、自分の命を簡単に投げ出した。
「恋くん……」
「俊蔵の狙いはこれだよ。恋が自ら、命を投げ出すこと。自殺……だ。」
「明希……明希、明希……」
壊れたように、涙を流しながら明希を呼び続ける恋の姿は、痛々しくて見ていられなかった。
「俺は、死ななきゃ……明希が、明希が……」
「恋!こっち見ろ!」
琉は、グイッと体を引き剥がし、恋の顔を自分の方に向ける。
「死ななきゃ……死ななきゃ……」
だが恋の目は琉を映さない。
恋の手はまた包丁に伸びていく。
翔也が間一髪で包丁を拾い上げ、恋から遠ざける。
「恋くん!明希ちゃんは大丈夫だよ!恋くん!」
翔也も必死に呼びかけるが、恋の耳には入らない。
「死ななきゃ……死にたい、死にたい…。」
恋は自分の腕を引っ掻くように傷つける。
(どうしたら、どうしたらいいんだよ……!)
琉は必死になって考える。
そしてふと、あることが思い浮かんだ。
「恋。」
優しく抱きしめて、耳元で優しく囁く。
恋の手が止まった。
「愛してるよ。」
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