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君が消えた、夏 第三章 ②にしおりをはさみました!
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君が消えた、夏 第三章 ②
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「やぁ、秋人君。迎えに、来たよ」
気味の悪い声が、すぐ近くで聞こえた。
章と勇を待っている校門前。
気付けば取り込まれたように、男の結界の中。
何の心構えもないままに、秋人は男に取り込まれてしまっていた。
男が近付いて来ていたことさえ、気付かなかった。
距離を取ろうにも、足が、動かない。
「クックック。充分、楽しめた、だろう?」
男は、俺が悩んでいたことも、仲間とともにいられる時間を大切にしていたことも、全てがわかるというように、笑ってみせる。
今更、もうこの結界を崩せないことは、秋人には嫌というほどわかっていた。
「君が、来るか。それとも、石井章君が、来るか。さぁ、どっちを、選ぶ?」
選ぶことなんて、ない。わかっているだろうのに、この男は、わざわざ問いかけてくる。
「わざわざ、聞かなくてもわかっているはずだ」
秋人はそう言う。
男は心底面白そうに笑った。
「ちゃあんと、守って、いたからね。すこーしだけ、長く、一緒に、いさせて、あげたよ」
そう言った男は、結界ごとその場から、秋人も一緒に連れて行った。
学校の校門前は、何事もなかったかのように、生徒が通り過ぎて行く。
もう、章には合えない。
仲間にも、会えない。
決心したはずなのに、心が悲鳴を上げるみたいにきしんで痛くて。
これから俺をどうするのかとか、あの男は言わないまま。ただ部屋にポツリと置いて行かれた。
簡素な部屋だ。
寝ることくらいはできる。ただ、それだけの、簡素な部屋。
質問する気にもなれなくて、俺も何も聞かずにそのままだ。
このまま、ここでしばらく過ごせとでも、言っているのだろうか。
また、前触れなく現れて、俺を翻弄するんだろうか。
なんの為に、俺だったのかもわからないままだ。
どうしたら、この部屋から出られるんだろうか。考えてみたけれど、何も良い案は浮かばなかった。
あの男の結界は、意外にも強い。
ここが、どこに位置しているのかさえ、わからないのだ。
もしこの部屋から出られたとしても、あの男にすぐに捕まるだけだろう。
みっともなく、泣き喚く姿だけは、あの男には見せたくはないから。だから、平然としているふりをした。
けれど、きっとあの男はわかっているのだろう。
薄気味悪く、嗤っていた。
楽しそうに、嗤っていた。
これから、俺はどうなる?考えたってわからないのだ。
あの男がまた表れて、何かを言い出すまで、俺は待つしかないのだ。
何もできない、無力過ぎる自分。
頼ってばかりで、何もできない自分。
ただ、俺がここへ来たことで、章には何もされなければ良いと、それだけを願っていた。
仲間にも、危害がなければ良い、と。
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