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終幕 秀と勇にしおりをはさみました!
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終幕 秀と勇
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「勇、少し出かけられるか?」
秀の力は、また封印したようだが、前よりも強い力を秀に感じる。
多分、多くの力を封印しきらなかったのだろう。
「出かけれますけど。どこかに行くんですか?」
勇は不思議そうに、秀を見る。
あれから、そんなに日にちは経っていない。
秋人は疲れを癒す為に、まだあまり起きてこないけれど。章はずっと付き添っている。
聖と勇と純は変わらず学校へ、通っている。休んでいるのは章だけだった。
秀も大学を休んでいるのは見ていない。
学校から帰って、すぐに秀から声をかけられた勇。
「あぁ、少しな。着替えて来てくれ」
言われて勇は、制服を普段着へと着替えに行く。
秀と二人でどこかへ出かけるなど、今までなかったことなので、不思議な気持ちは消えないまま。
秀の車に乗せられ、山道を走っている。
あまり人がいなさそうな場所だ。
「ここは?」
考え事をしているような秀を、妨げることはできず、ここまで無言だった。
山の中腹。少し開けた場所に、その家はあった。
小さな日本家屋。平屋建てで、簡素な造りだった。
「着いて来い」
それだけ言って、秀はその家に入って行ってしまう。
住人に、声をかけてもいない。
慌てて勇は後を追った。なんだろう。どうして、ここに……。疑問は尽きないのだが。どうやら秀は勇に、疑問の返答はしてくれなさそうだ。
「お久しぶりです」
中の、畳の部屋。六畳ほどの部屋に、布団が敷いてあった。
誰かが寝ているのか。その人に、秀が声をかけていた。
「あぁ、久しいのかな。時間の経過は、あまりわからないね」
穏やかで、優しい声がする。
勇は、どこか懐かしい気持ちがした。
「勇、こっちに来い」
秀に呼ばれて、勇は静かに近付く。
「あぁ、君は、本当に、約束を守ってくれたのだね」
優しい声の主は、静かに涙を流している。
痩せこけてしまっている顔しか、勇には見えない。
「とう、さん……?」
面影から、記憶から、引っ張り出した答え。
「あぁ、勇。ごめんな。すまない」
静かに流す涙を、そのままに、瞳が勇を映す。
痩せた手が、勇へと伸びた。
「とう、さん……」
勇はその場に膝をつき、彼の手を必死に握り締めていた。
秀は静かに、その場を後にした。
「秀さん、ありがとうございます」
日が落ちてしまった山の中。
静かに秀は、月を見上げて立っていた。
「間に合うか、わからなかった。俺の力を少しだけ、渡していたから……、大丈夫だとは、思っていたんだが」
力の波動で、彼がまだ大丈夫だと、わかってはいたのだが。
それでも、話しができるほど大丈夫かは、来てみないとわからないことだった。
「父さんは、このままでって……。俺は、ちゃんと弔いたかった」
多分、泣いていたのだろう。勇の目元は、赤くなってしまっていた。
「魂は、還って行った。だから、大丈夫だ。お前に会えたから、未練はない、と」
彼については、役所関係なんかも、色々としなければならないだろう。
本人がこのままで、とは言っても、勇が言うように、きちんとした弔いも必要だとは思う。
その辺については、また考えなければならないのだが。
獣に荒らされないように、秀は家を結界で覆った。
誰かが、彼がここに住んでいることを知っていたとしたら、彼の亡骸は見付かるだろう。
「力の強い術者に、よくあることなんだ。若い時に、自身の力の使い過ぎで、早くに死期がくる。田村さんは、天野を封印した力が、相当な負担になっていた」
秀は静かに話す。
「勇を天野の目から隠したのは、間違いなく田村さんだし、勇が泉林に行くようにしたのも、田村さんだ。でも、多分そこまでで、力尽きてしまってたんだと思う。俺は、力を解放した時に、田村さんの声が聞こえたから、会いに来た。でももう、霊力もなにもなくて、死は目前だった」
こくこく、と勇は頷く。
連絡を一切くれなかった父。一緒に暮らせないと言った父。
今なら勇はその理由がわかる、と思う。
「天野は多分、霊力のなくなった田村さんを、感知できないでいた。だから、勇が一緒にいても、きっと大丈夫だったと思うんだけど。それでも、勇を守りたい意思で、田村さんは一緒にいなかった。万が一っていうのは、誰でも考えることだから」
勇の目から、また涙が溢れだす。
「ここのことは、まだ勇にしか言ってないけど。帰ったら、正兄に相談するよ。それから、決めよう」
役所関係だとか、弔いだとか。そこは秀にもまだよくわからない所なのだ。
静かに泣いている勇を促して、車に戻る。
帰る時も、二人は無言だった。
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