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冬、訪れた変貌 エピローグ
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「秋人。心の中に残った、哀しみの心、憎しみの心を、全て消し去る」
静かに秀は、ベッドの中の秋人に声をかけた。
これの為に、ずっと付き添っていた章に、すぐ終わるからと言い聞かせて、席を外してもらった。
「秀さん、それは……」
秋人は、秀に負担がかからないだろうか、と心配している。
その視線を受けて、秀は笑う。大丈夫だと。
「哀しみや憎しみは、心に闇を作る。そうなると、秋人が大変になるから」
誰だって持っている感情だ。でも、それが過ぎると、悪影響にしかならない。
特に、秋人が持っているのは、自分の感情だけじゃないのだ。
「秋人自身の感情を無くすことは、しない。それは、大切なものだから。ただ、秋人自身のものではない感情を、消すんだ。本来なら持つべきじゃない力も、含めて」
消しても、きっと秋人は忘れはしないだろう。
それでも少しは、楽になる。
そう言われてしまえば、秋人に拒否はできない。秋人自身持て余す感情を、力を、無くしてもらえるなら、ありがたいのだ。
「お願いします」
秀を見上げた秋人は、そう言って、体の力を抜いた。
「そのまま、力抜いてて。大丈夫だ」
そう言って、秀の力が秋人を覆う。
優しくて、暖かい光の中。
秋人は、自分の中からたくさんのものが流れ出て行くのを感じた。
でもそれは、秋人のものではない。天野に支配された、犠牲になった人たちのものだ。
天野は体の外にはじき出されたが、彼らは秋人の中に残ってしまった。
残ったままだったから、秋人はまだ、彼らの苦痛を聞き続けていた。心を閉ざしてしまいたいと思えるほどの、苦痛の心。
秋人は、ずっと聞き続けてきた。もう、天野はいない。と言い聞かせながら。
秋人の体から抜けたモノは、ほとんどが浄化され、消えて行った。
けれど、中には簡単に浄化できないほどの、恨みの感情もあって。これ程までの感情に気付かずにいた天野という男の、無神経さに改めて秀は戦慄する。
簡単に浄化できないものは、秀がその心を自分に取り込んだ。取り込むことで、体内で浄化をしていくのだ。
秀に負担になることは、間違いではないが。このまま秋人が持っているよりは、浄化のできる秀が肩代わりした方が良い。
だが、そのことは、秋人には言わない。言えばきっと、秋人は気に病むだろう。
秋人が、天野に連れ去られる前に見せてくれていた信頼は、嘘偽りのないものだったのだから。
秀に向けた、秋人の心配そうな目が、それを如実に表している。
「平気か?秋人」
終わったことを示すように、秀が声をかけた。
すっと、秋人の目が開く。
「なんだか、心が軽くなった気がします」
笑った秋人に、秀が笑顔を返す。
「そうか、良かった。ゆっくり休め。章、呼んでくる」
そう言って、秀はその場から立ち去った。
秋人は、軽くなった心で、今ならゆっくり眠れそうだ、と思う。
慣れ親しんだ気配が、すぐ近くに来た。
「章、ごめんな」
秋人が紡いだ謝罪に、章は首を振る。
「待ってた。絶対に、大丈夫だって、信じてた。おかえり、秋人」
「ただいま」
章の声に返しながら、秋人は久しぶりの静かな眠りへと、体をゆだねた。
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