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17(最終章)ー3
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「ちょっとごめん。知り合いがきたんだ。」
いうなり修平はスクリーンの反対側に飛び出した。
絵を鑑賞していた人々が驚いて振り返る。
展示スペースはワンフロアーで死角もない。
だがそのなかに期待したひとの姿は見当たらなかった。
「オニ・・・・」
修平はいそいでギャラリーの外にでた。扉の向こうは繁華街の人波。
見渡していると、少し離れた人ごみのなかに、見慣れた猫っ毛の頭が見えた。
あ、と思った瞬間、その頭がついとこちらを向いた。
にかっ。
なつかしい笑顔。
一瞬、あたりの喧噪も掻き消えて、時間が巻き戻ったような錯覚が起きた。
朝寝坊して起こされたときの。
得意の鶏の唐揚げをつまみぐいしたときの。
夜、一緒に流星を待っていたときの。
満開の、桜のしたで。
「おかえり、泉くん」と
はっ、と我にかえったときには、繁華街のひとごみのなかに、
鬼塚の姿は消えていた。
あわてて彼のいた方に奔る。だれかの肩にぶつかり、バッグをひっかけて
謝り、頭を下げながら必死に探した。
が、見つけることは出来なかった。
あきらめてギャラリーに戻ると、芳名録をみる。
一番最後の欄。
『お元気そうでなによりです。ぼくらも、平和に暮らしています。
・・・逢わずに行きます。泉くん、どの絵も全部、素敵です。
ありがとう。 鬼塚』
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