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【番外編】金と黒 36にしおりをはさみました!
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【番外編】金と黒 36
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「け、健人……!」
翌朝、明がはっきりと目覚めたのは、顔を洗っている時のことだった。
ふと意識が浮上して、ぼーっとしたまま洗面台に立つ。その時はまだ鏡に映る自分姿をよく見ていなかった。そのまま顔を洗い、水気をタオルで拭き取って、顔を上げてからの現在である。
一番最初に目が行ったのは、首筋の鬱血痕だ。見た時に目を疑ったが、どう見てもくっきりと赤く残っている。
これで問題なのが服装である。私服は当分タートルネックか、マフラーやストールで隠さなければならない。そして、仕事着……スーツを着てでの仕事だが、これはカッターシャツで隠れるのか。いや、ギリギリのラインでどうかわからない。
明は衝撃的なものを発見して、このあと歯を磨こうとしていたのに、それを忘れて健人の元へ向かった。
健人はベッドでまだ寝ている。毛布に埋もれる健人の身体をゆさゆさと揺らした。すると、健人の眉根が寄り、眉間にシワが出来て。
「健人、起きて」
「んー……おはよ……」
挨拶はするものの、まだ寝ぼけているようだ。伸びてきた腕が明の首に回り、ぐいっと引き寄せられて明はベッドにダイブしてしまう。すぐに腕から逃れて起き上がると、鬱血痕があった辺りを指さした。
「ちゃんと起きてよ。健人、これ……ここはまずいんじゃないかな?」
健人の瞳が開かれ、ちらりと明を見る。そして、なにかを思い出したように、ふっと笑って。
次に伸びてきた手は、明の首筋に触れる。指先に赤い痕をつつっと撫でられて、くすぐったさで明の肌は震えた。
「……良い感じについてんじゃん」
「ねえ、ここ見えないところ?」
「んー……見えるところだな」
ちゃんとわかってるじゃん。
部屋が急に静かになる。少しの沈黙を経て、明は溜め息をついた。
「……ごめんなさいして」
「ごめんなさい」
健人はベッドから身体を起こすと、素直に頭を下げた。まだ微かに寝ぼけているようだけれど。
そのあとから抱きついてくる健人を受けとめ、明は「もう、全然反省してないでしょ」と言う。だが、ゆらゆら健人が揺れるままに明も身体を揺らしていると、だんだんどうでもよくなってきた。ゆりかごに揺られているような心地良さに、健人の肩に顔を埋めて瞳を閉じると、健人が口を割ってきて。
「なあ、今日は休みだろ? せっかくだし、二人でなんかしよーぜ」
「なにを?」
「そうだな……明って行きたいところとか、したいことってねーの? あんまりそういうの聞いたことないよなと思って」
健人に言われ、明は考えを巡らす。
そういえば、物欲というのはあまりないかもしれない。その上、恋愛経験がないため、付き合い方というのも正直わからない。いざ考えてみると、こういう時ってカップルはどこに行っているのだろう状態である。しかも男同士なのに。
わりと真剣になって考えてみたが、結局、明にそれという答えは出てこなかった。
「ごめん、特にないかも……だって、俺はほとんど健人について行ってたし、それで十分満足してたから」
そっと寄り添いながら言うと、ゆっくりと健人が離れていって。健人はなぜか照れていて明から視線を外すと、頬を掻いている。
「……お前ってほんとに俺のこと好きだな」
「悪い……?」
そうわかりやすく照れられると、こちらにも伝染するからやめて欲しい。
「んーん、サイコー。ま、明のやりたいことは徐々に見つけてくとして……じゃあさ、ドライブとかどう? あ! あと記念にお揃いのピアス買いに行こうぜ!」
「でも、仕事上ピアスは禁止だから、ずっとつけてはいられないと思う……」
「いーの。一緒にお揃いのものを買いに行くってのに意味があんの。休みの日とかにつけてくれれば十分」
そんなものでいいの?
明の中に、また同じような疑問が浮かび上がる。付き合うというのを理解していくのは、まだまだ時間が掛かりそうだ。
くわっと欠伸をした健人は、ベッドから立ち上がって明の隣に立つ。そして、気持ち良さそうに背伸びをしたら、明にニッと明るい笑みを向けた。
「なっ! 行くだろ、明!」
差し出される手。明は一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに細められて。言うまでもなく、差し出される健人の手に自分の手を伸ばした。
「うん」
ぎゅっと握り締めた手は、どこまでも引っ張ってくれる。それが明にとって、この上なく嬉しいことなのだ。
明はほんのりと頬を熱くさせて、その手を握り返した。
End
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