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ーマシロナーにしおりをはさみました!
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ーマシロナー
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次の日、目が覚めたのはお昼過ぎだった
カーテンから差し込む太陽の光でわかる
隣には翔が俺を抱きしめてくれていた
「目が覚めたか?」
「うん・・・・もしかして起きてたの?」
「俺もさっき起きたところ」
「そか」
でも・・・
その割には目が赤い
きっと寝ていないんだとすぐに気付いたけど気付かないフリをした
「眠れないほど心配な事があるの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ごめん・・・・翔の事が心配だから」
「・・・・・・・・・・・・・・・そうだな・・・・・俺にもわからない」
「そか」
翔は頭の上に置いてある煙草を取り出し火をつけて、深く吸い込んだ
でも、片方の腕は俺を抱きしめてくれていた
俺は翔の手を握りしめたまま天井に吸い込まれる紫の煙をぼんやり見つめていた
「俺さ」
「うん」
「犯罪者なんだ」
「えっ?」
突然の事で言葉が出なかった
意味がよく理解出来なかったから
「人を殺したりとかじゃないよ・・・・裏でいろんな事をして金を動かしていた」
「それって」
「そうだな・・・・ハッキングってやつ」
「勝手にPCに侵入して、金を動かしたり頼まれた書類を消したりね」
「うん」
「でも、俺がやったのはかなり罪が重いらしい」
「どうして?」
「昨日、お前のスマホで調べたらさ・・・・俺が捕まるのも時間の問題みたいな感じになっているらしい」
「そんな・・・・・」
「色々と事件が重なって、今までなら簡単にすり抜けられる事でも法律が厳しくなってすり抜けられなくなっていたんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・そか」
「でもお前は犯罪者じゃない・・・・だから自分の道は自分で決めろ」
「翔は?・・・・・・どうするの?」
「俺か・・・・・・・」
手に持った煙草の灰がシーツに落ちた
翔の表情は無表情だった
こういう時、どうしたらいいんだろう
見捨てる?
そんな事はしないし見捨てるつもりは無い
自首を勧める?
それも嫌だ
「ホント、どうして生まれてきたんだろうっていつも考えながら適当に生きてきたけど・・・お前と知り合って生まれて来た事に激しく後悔したよ」
「翔・・・・・」
「普通なら罪を償うのが人間として当たり前の事なんだろうな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「でもさ、罪をつぐなって社会に復帰出来る自信はないんだ・・・・どうしようもないな、俺・・・逃げる事しか考えられないんだ」
「俺だって一生、殺人者の息子なんだよ・・・・・俺もいつまで耐えられるかなんてわからない」
煙草を揉み消して、2本目の煙草に火をつけた
しばらくまた無言が続き・・・・・・
「選択は三つかな」
「三つ?」
「一つ目は自首する」
「うん」
「二つ目は逃げる」
「・・・・・うん」
「三つ目は・・・・・・・・・・・・死ぬ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
普通なら最初の選択を選ばなければいけないのに、俺は何も言えなかった
「お前だったらどうする?」
俺は・・・・・・・
どうしたいんだろう
翔がもし捕まっても待っている事は出来る
それから新しく人生をやり直せば・・・・・・・
でも・・・・・・俺は弱いから
すごく弱くてずるいから
今の厳しい社会の中で一人で生きていける勇気は無かった
俺だったらどうするとかじゃなくて、俺が今選ぶ選択は・・・・・
だから・・・・・・すごくずるいけど罪を償う事ではなく、地獄に落ちる選択をした
「死ぬ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・そっか」
「俺も一緒に死ぬ、だから一人にしないと約束して」
「待て、お前を連れて行くのは・・・・・」
「嫌だ!俺も死ぬ」
冗談で言える言葉じゃない事ぐらいわかっている
でも、翔がいない世界なんかにいたくはない
「お前、死ぬって言う意味がわかってるのか?」
「わかる」
「もうこの世には戻れないんだぞ」
「知ってる」
「あの世があるのかもわからないし、地獄があるのなら間違いなく地獄行きだ」
「うん」
「それでも死にたいのか?もし中途半端に生き返って今より辛い事になるかも知れないんだぞ?」
「翔と一緒に行く・・・・生きている方が今の俺には辛い事だから・・・・みんなそんな辛さに耐えて一生懸命に生きている事もわかってる・・・・でもっ・・・・俺はするいと言われても地獄に堕ちても・・・・・翔と最期までいたい」
「ばーか」
「馬鹿だもん」
翔は笑いながら頭を撫でてくれた
俺も何故か笑う事が出来たんだ
きっと、人間は覚悟が決まるとそんなものなのかなって思えてしまった
今はまだ死ぬと言う事に対しての恐怖は無い
あるとするならば、逃げると言う卑怯な行為を選んだ情けない俺達を蔑む事ぐらいかな
生きるって何だろう
何の為に人間は生きているんだろう
辛い事や悲しい事があっても生きなければいけないのは何故だろう
人はどうして自殺をしようとする人間を止めようとするんだろう
命は自分の物なのにどうして自殺はいけない事なんだろう
わかってる・・・・・
わかっているけどわからないふりをしたいだけ
でもね、一つだけわかった事もあるんだ
人間は追い詰められるとあんな表情をするんだなって
俺もそうだし翔もそう
同じ表情をしていた
昨日の朝までは死ぬ事なんて全く頭の中には存在しなくて、幸せな人間の一人だった
これからも毎日学校へ行って、友達と遊んで・・・・・・寂しい毎日だったけど死ぬと言う選択肢はなかった
でも今は?
何を考えても頭の中は真っ白
人間の人生なんて本当にわからないものだね
今はそれすら考える事が嫌になる
死んだらどうなるんだろうって考えてみたけどわからないものはどうしようもない
ずっと暗闇にひとりぼっちになるのは嫌だな・・・・・
でも、それよりももっと嫌なのは俺だけ生き残る事だから
「約束だよ?」
「わかった」
親からもらった体なんだから大事にしなさいと学校で教わった事があった
でも、親は子供を作り出して放置する親もいるし捨てる親もいる
俺の親のように、子供の事を考えずに勝手に全てを奪って死ぬ親もいる
もちろん、全ての親がそうではない事はわかっている
優しい親もいるだろうし、子供を大切にする親もいる
だけど、その逆もあるんだ
親の為に仕事をする子供
親に殴られても笑顔でいる子供
どうしてだかわかる?
子供にとっての親は一人しかいないから
どんなに酷い事をされても最後まで信じたいと言う気持ちがある事を知ってほしいから
子供だって生きている
一人の人間なんだ
でも、それをわかってもらえないからみんなどうしようもなくて逃げ場を探すんだよね?
俺もそう
俺の逃げ場は翔なんだ
翔が死ぬと言えば俺も死ぬ
馬鹿だとは思うけどそれ以外に考えられないから
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