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ヨーロッパ大会にしおりをはさみました!
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ヨーロッパ大会
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スイーツを作っていると
何も、耳に入らない
話し声も、作業の音も
雪の中にいるみたいに、静かになる。
そういう時が、2ヶ月俺にはあった。
……いや、今が、それだ。
***
綺麗なんだ、すごく
【───生地を、折り込む…丁寧に、丁寧に】
…お前に、見せたい
きっと、気に入ってくれるはずだからな
春に、咲くんだ。
【───ぐちゃぐちゃになった果物や
ナッツを…ペースト状に、ジャムに、
歯ごたえも残して……】
すぐ、散ってしまうけれど……
凛とした佇まいと淡い色の花びら。
気高く儚くも、美しく咲き誇る
きっと、世界で一番、綺麗な…………
【──中に使うチョコレート…ごめんな、
今回は、脇役だ。】
その花を見て、笑うお前が
【─────最後に、一つ一つ…粉砂糖を、】
見たい……
ビ───!
「…は、」
ボンヤリとした頭の中
どこか遠くでブザーの音が聞こえた。
終了を知らせるアナウンス
何故か妙に疲れているからだ
……終わった?
そう認識したと同時に俺は、
目の前にあるものに目を奪われた
いつのまにか…スイーツができていた
正方形の、一口サイズのパイ
淡いピンクと真っ白な色のパイは交互に並べられ、
市松模様となっていた
よく見ると…パイの表面には粉砂糖によって
『桜』が描かれていた
「これ、…?」
俺、が?
この3時間が記憶に、なかった
一体、どうしたっていうんだ…?、
俺は自分でも訳がわからないまま、
審査員に説明をすることになった。
『このスイーツはパイ?
コンセプトを説明してくれるかな?』
イタリア訛りの英語
俺はたどたどしくも、ゆっくりとこう答えた
「これは…桜です。日本の古からの信仰の
一つである桜。そして、市松模様。
これも日本に伝わる伝統的な柄の一つ
これらは、きっと…信じ、教えられてきたものです」
『なるほど。インパクトは薄いけれど、
繊細な作りですね……ところで、貴方は
何故エプロンのみなのですか?』
違う
それだけじゃない
俺が伝えたいのは
そうじゃない
「全部同じに見えますが全て味が違います。
ひとつひとつ、作りました。
丁寧さ、それが…一番の、日本の信仰心だからです。
エプロンなのは、俺が、調子に乗っていると
周りに思われているからではないでしょうか?
俺は確かにフランス代表だけど、
日本人であることを、忘れてないですし
誇りに思う。その意思表明…でもあります。
だから、何を言われても怖くてない
そんな…気持ちです」
何を言ってるのか、よくわからなかった
的を射てないし、声も震えている
審査員には、伝わってないかもしれない
それでも、いい
俺がこれを、このパイ達を食べさせたいのは
審査員じゃないから
……エリックに、食べさせたくて、
教えたくて…作ったから
お前に伝われば
それで、俺は……幸せなんだと思う
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