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遠い人にしおりをはさみました!
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遠い人
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「小波ー、営業行くぞ。」
「はい!」
1月の頭。
上司からの声に返事をしてマフラーを巻いて外へ駆け出す。
あの人の事を忘れてから、何もかも少し吹っ切れた気がする。
俺の毎日は手の届かない誰かを想う日々から、大好きな作家のファンでいる事に戻った。
ただそれだけ。
本が出れば買い、テレビを録画して映画化やドラマ化は欠かさず見た。
そんな日々も案外充実していてどうしてあんなに高嶺の花へ手を伸びしていたんだろうと今は不思議に思う。
俺の仕事はあの人へ間接的に繋がることすらなくなり、今はまだ売れない新人作家の本を本屋へ置いてもらえるよう交渉する営業に変わった。
それも自分から編集長へ頼んだ事だった。
少しでも繋がっていればまた出会ってしまう事があるかもしれないから。
そんな日々がやっと 安定してきていた。
*
家の鍵を締め、カバンを抱きしめたままフラフラと玄関へ倒れ込む。
去年の末からカウントダウン番組、お正月番組の生放送が四日連続でほとんど眠れなかった。
お仕事を貰えることはありがたいことだけど。
もう要らないから、とテレビ局の人からもらった鏡餅を玄関の向こうへ放り出しそのまま目を閉じる。
久しぶりに横になった。
今日は何日かな。
そんな事を確認する元気もなくそのまま眠りに落ちてくる。
この 疲れきった眠りが好き。
何も考えないうちにいつの間にか眠ってしまうから。
去年の末、あの休暇のおかげで俺は実はすごい病気持ちだなんていう噂が流れたけれどインフルエンザは治りましたってテレビの出た瞬間にそんな噂はすぐに消えた。
何もかもそんなもの。
ただのインフルエンザってことになったおかげであの一連の騒動はどこにも深入りされることなく終わった。
俺にとってももうあんな事無かったんだという事にしている。
だから実際年が変わっただけで特に何の変わりもない。
強いて言うなら今日が年明け最初の休暇で、今日から3日間お正月休みを貰えたということだけ。
なにか本を書こうかな。
書くなら、とびきり優しい話にしよう。
そうだな色は白くて匂いは甘い話にしよう。
バニラアイスよりも甘くて綿菓子より白い話にしよう。
そう思いながら夢へ落ちた。
起きたらまた人間らしく生きていけばいいんだから。
そんな日々が 今日も流れ過ぎていく。
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