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「今日の5、6限目って確か全校集会なんだよな」
「そー。生徒会選挙やるらしいぜ」
その日の昼休憩、食堂で買ってきたサンドウィッチの袋を開けながら涼が問えば、弁当箱を広げながら壮馬が答える。
いつならば慎吾を加えて3人で食堂にいるのだが、今回午後に控えている生徒会選挙の準備の為慎吾は不在だった。その為、今日は壮馬と涼の2人は教室で昼休憩を取っている。
「慎吾がいねーと、女の子全然寄って来ねぇから静かだなぁ」
「そうだな」
残念がる涼に壮馬は適当に相槌を打つと、卵焼きに箸を伸ばした。
正直、壮馬にとって今日慎吾がいないのは幸いであった。今朝はあんな夢を見たのだ。本人と出来るだけ顔を合わせたくないのは当然であろう。今日は大事な選挙があるからか、慎吾は休み時間の度に生徒会室へと足を運んでいた。そのお陰で、今日は殆ど顔を合わすことは無かったのだが。
「…なぁ壮馬」
「ん?」
「慎吾と何かあったのか?」
「げほっ!?」
ド直球に尋ねてきた涼に壮馬は口に含んでいたものを危うく吹き出しそうになった。その代わり、まだ噛みきれていないにも関わらず飲み込んでしまい、盛大に咳き込む。
「な、なんだよ急に…!」
「や、なんか今日は慎吾と一緒にいねーなーって思ってさ。何となく」
「何となくかよ…」
ほいお茶。とペットボトルの緑茶を差し出されたのを有難く受け取り、ひと口含む。落ち着いたところで、壮馬は「何でもねーよ」と答えた。
「ふーん、ならいいけどよ」
あっさりと引き下がった涼は、食べることに集中し始めた。流石は運動部といったところなのか、ハイスピードで涼の胃の中へと消えていく食料に苦笑を浮かべながら、壮馬は箸を握り直して弁当にありついた。
涼のカンの鋭さには心底驚いたのだが、まさか今朝の出来事を話すわけにもいかない。
今日、慎吾が忙しくて良かった等と安堵していたという罪悪感がまるで針になって壮馬を刺しているような気がした。無意識に眉間に皺が寄る。それを見ていた涼は、口いっぱいに含んでいたものをゴクリと喉を鳴らして飲み込むと、「喧嘩したなら早く仲直りしろよ」とだけ忠告すると、それ以降一切何も言わなかった。
※※※
「演説お疲れさん」
「サンキュ、すごい緊張したわ」
放課後、生徒会選挙終わりの慎吾の元へと向かった壮馬は早速労いの言葉をかけた。あのまま選挙が終わり、帰りのホームルームなしに解散という形になったからか慎吾はまだ体育館に残っていたようで、体育館の隅で壁に背を預けた状態で座り込んでいる。
「ん」
「冷たっ…!?…なんだこれ」
「当選祝いのジュースだけど」
「まだ気が早いぞ」
緊張から解放されたお陰か、いつもよりも疲れきった表情の慎吾の頬に冷たいレモンティーを当ててやると、慎吾は呆れながら大人しくそれを受け取り、壮馬は慎吾の隣に腰を下ろすと冷たい床に手をつける。
「ま、慎吾なら当選確実だろ」
「どっから湧いてくるのその自信」
自分よりも自信たっぷりな壮馬に慎吾は苦笑する。慎吾はこの学校で知らない者が殆どいないであろう有名人だ。文武両道、容姿端麗、頭脳明晰の三拍子を兼ね備え、男女分け隔てなく接し物腰柔らかで紳士的。誰もが憧れる存在であろう。そんな慎吾が生徒会役員に立候補すれば、演説などしなくとも慎吾の人望のあつさを見れば当選確実だというのは一目瞭然である。逆に、何故当の本人がこんなにも自信なさげなのか壮馬には理解出来なかった。
「うちのクラスは聞いた限りじゃ、殆ど慎吾に投票してるぞ」
「マジかー。それは有難いな」
安心したように笑って慎吾は壮馬から貰ったレモンティーの栓を開けると、一気に喉に流し込む。
「もう半分飲んだのかよ」
「死ぬほど緊張して喉乾いてたんだよ」
「まーそうだよな。全校生徒の前で演説だもんな」
つい先ほどまでこの体育館には全校生徒でいっぱいだったというのに、今では壮馬達2人と壇上を片付けている教師数名しか残っていない。
「そういえば、何でここにいたんだ?教室には戻らねぇの?」
「あー、なんとなく教室には戻りたくなくて。皆が帰るまで、ここで時間を潰そうかなって思ったけど…まぁ、一番の理由は、あまり人のいないところで壮馬と話したかったから、かなぁ」
「っ!」
そう言って慎吾はニコリと微笑んだ。うっとりする程の美形に間近で微笑まれ、壮馬の顔に一気に熱が集中する。コツリ、と壮馬と慎吾の小指がぶつかり合い、逃げようとする壮馬の小指を慎吾は逃がさないとばかりに自分の小指を絡めた。
「〜っ、しんご…先生に、見られるぞ…!」
「この距離でバレやしないよ。それにほら、上手くブレザーとかで隠しとけばいいし」
見られてしまう。と焦る自分に対し、慎吾は余裕の表情だ。絡み合う小指が驚く程熱い。今朝の夢を思い出して、鼓動が余計に早くなる。
「今日、壮馬と全然話せなかったけど、今一緒に話せて嬉しいよ」
「…そんな恥ずかしいこと、サラリと言うなっての」
「事実だもん。仕方ないじゃん」
いつの日か幼馴染と一緒に読んだまるで絵本の中から出てきた王子様のような笑みで、女の子なら絶対にイチコロな言葉を口にする。だけど自分は男であり、今はお試しとはいえ恋人関係なのだが元は親友で。なのに何故、こんなにも心臓が五月蝿いのであろう。
「壮馬」
ーあぁ、この声。甘く蕩けるようなこの呼び方。夢で何度も何度も聞いた。
「好きだよ」
壮馬にしか聞こえないような、小さな小さな囁くような声で、親友は幸せそうに微笑みながらそう告げる。
もうすぐ終わるであろう、この関係を一瞬の時も無駄にしないように。親友は精一杯の想いを届け続ける。
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