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「…!」
スーツを身に纏い遠ざかりかけていた彼の背中がピタリと動きを止める。
「…………」
「今夜だけでいいからっ…、帰らないで…」
「……無茶を言うな。ひと月もすればまた時間も作れるはずだ。だからそれまで良い子にしてろ」
「──ッ御崎さん!!」
ガチャン、とドアの閉まる音が響き、彼はオレの視界から消えた。
引き止めたって無理なことくらい分かってた。
それでも"もしかしたら"と期待した結果がこれだ。
「好きだって…言えなかったなぁ…」
引き止めるよりも先に出てきそうな言葉を後回しにしたのはなんでだろう?
でもこれで良かったのかもしれない。
彼は奥さんの所に帰ったんだろうから…。
「っ…ふ…、ぅ…ッ」
ボロボロと零れる涙が終わりを告げる。
決して困らせたかった訳じゃない。
彼を不幸にもしたくない。
だったらこれが最高の終わり方なんじゃないか。
そう何度も自分に言い聞かせ、ベッドの中で膝を抱える様にくるまる。
悲しい夢でも見た子供のみたいに泣きじゃくり、そして繰り返し彼の名を口にしながらオレはいつの間にか眠っていた。
重い瞼を上げ、のそりとベッドから起き上がる。
一人で目覚めた朝はいつも誰かを探して部屋の中を見渡す癖がある。
でも今日は珍しく癖が出る事もなく、どこか吹っ切れたように淡々と支度を済ませ病院へと向かった。
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