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反旗
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刺客
兄の放った刺客は、土佐坊昌俊。
大和国興福寺金剛堂の堂衆だった男である。
罪在ったところを、縁あって土肥実平が救い、頼朝兄上に引き合わせた。
以後臣従し、御家人として治承・寿永の乱にも加わったという剛の者である。
此度の私への誅罰も、進んで名乗りを挙げたといい、八十騎ほどが私邸に躍り込んで来た。
この日はたまたま家中の者の大半が外出しており、剣持つ者大いに不足していたが、郷の家人に使える者かなりいて、私は邸内を任せることができた。
自ら邸外まで賊を追って出た私は、そこで意外な光景を見た。
主が追走してどうする!
邸に居れ邸に!!
叫んだのは行家叔父上だったのだ。
弁慶や忠信とともに、刺客どもと刃交えていたのは行家叔父上とその郎党だったのである。
思わぬ助太刀もあり、我々は何とか刺客どもを撃退できたのだった。
儂が手貸しをしてしまったゆえ、おまえももはや鎌倉敵対扱いであろう。
今敵対と扱われたわけではない。
刺客送られたこと自体が、すでに敵とみなされておる証左。
兄上は、己の疑心暗鬼がゆえに、自ら私を敵と扱ったのです。
とすれば、もはや和議の道はあるまい。
主上に願い出て、鎌倉追討の宣旨をいただくのじゃ!
結局こうなってしまうのか。
私は兄と戦うしかないのか。
ないのか?
堀川沿いを歩いていると、乞食(こつじき)の父子に一礼された。
飢饉の折に粥をいただきました。
今日まで生き延びてこられました。
生きるのに手一杯の者が恩を語る。
こどもはにこにこと私を見ておる。
おとうにゆわれた。
我らのことまで考えてくださる検非違使様は、義経様だけだと。
ありがたいことじゃと。
拝めとゆわれた。
じゃから拝む。
なむううう。
思わず噴いた。
私は観音でも薬師でもないぞ。
拝んでも利益はないぞ。
そうなのか?
拝んで損した。
こ、こら。
親は慌てるが子は正直である。
思わず笑ってしまった。
そして。
笑ったら覚悟ができた。
刺客が市中をうろつく京であってはならない。
そのゆえに…
西の味方
宣旨はすぐ出た。
早速挙兵の準備にかかる。
反頼朝勢力を結集せんとしたが、洛中にはさしたる賛同者がいないようで、召集に応える武士団は僅少だった。
洛中におらずば西国に求めればよい。
後白河院から頼朝追討の院宣を受けた際に、ほれ、この補任状もいただいておいたのじゃ。
補任状?
儂が「四国地頭」、そこもとが「九国地頭」じゃ。
にしてもこれがすぐ必要になるとは思わなんだが。
義経の名声も、あまり効果がないな。
わー。
常敗行家がそれを言うか。
だが今、この状況下、郎党以外でこの義経に与してくれる酔狂は、この叔父くらいしかおらぬのだ。
西で兵を募るとなると、そこには平家の残党も来るのだろうか。
親兄弟を殺した者に、与できるのかそやつらは。
ああ…できるか。
私がこうして行家叔父上と一緒におるくらいなのだから。
生者は身勝手なものじゃな。
自棄的に言う私に、
戦が一つあれば、勝者と敗者が出るは必定。
敗者の半分は勝者を敵と思うが、残る半分は、解放者と思うたり、ああなりたいと憧れるのじゃ。
そうした者を集めればよい。
前も後ろも敵では戦えぬでな。
理屈ではそうだが。
私は違うと思うのだ。
その理屈は、敗者の兵たちの、心の動きのことではない。
敗者の兵たち一人一人の、己(おの)が心中の奥のことなのだ。
兵たちは、己が敗者であることを知っている。
敗者の心の半分は、勝者を敵と思う心であり、残る心の半分は、解放者と思うたり、ああなりたいと憧れたりする心である。
だから一旦私や叔父上の陣に付いてくれたとしても、戦の最中は修羅である。
半分の心が膨らんだり、堰を切ったりなどしたら?
唐突に思い出した。
叔父上は、この上ない戦さ下手である…
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