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58話「寝ていた」にしおりをはさみました!
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58話「寝ていた」
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「だーいーちゃん!」
パシッ
叩かれた頭。
もそりと起き上がって見上げれば、ぼんやりとする視界の奥に沢野の姿があった。
「・・さわの?」
「よっ!」
ニッと笑う顔。ああ、沢野だわ。
顔を突っ伏して寝ていたために視界がくらんでしまっているけれど、この声と喋り方も合わせて目の前にいるのは沢野だ。
窓側の一番後ろの席。
だれていた体を起こす。どうやら、五時間目の授業は終わったようだった。残すはあと1時間。確か、英語だったと思う。
「なあなあ、お前らどしたの?告白して、フラれて、その後は?一瞬喋らないし顔も合わせなかったし、一昨日当たりに1時間目サボって学校来たと思ったら普通に戻ってるし・・戻ったと思ったらそうでもないみたいだし」
呆れた様な表情のまま移動して、窓枠に寄りかかって首を傾げて来る。
俺は少しだけ椅子を引いて、大きく伸びをした。
「んんー・・っと、別に」
「別にぃ?」
沢野に、千田がアセクシャルであることは言えない。
千田はあんなに思い詰めた顔で俺に教えてくれた。だから多分、周りの人間にはあまり教えたくないんだろう。
「べーつーに。お友達に戻っただーけ」
「へえ、あっそ。お友達に戻ったって事は、千田ちゃんのこと諦めたわけ」
「・・・」
「諦めてはいないのな」
クスクスと後ろから笑い声がした。
「大変なー、お前も」
沢野はきっと、ニタニタ笑ってるんだろう。
そういえば、沢野の方だって、本原との関係はどうなったんだ。俺も話していないけれど、沢野も俺に何の話しもして来ない。
「・・・」
「・・・」
互いに、順調でないと言うのだけは確かだった。
「なんかさー、いいのかなって思うんだよねー」
「?」
唐突に、沢野はズルズルと窓枠を滑り、床に座り込みながら壁に寄りかかった。
そうしてこっちを見上げてきながら、ニコッと困ったように笑う。
「本原と俺も、仲直りはまあ、したんだけどさ。それだけでいいのかもーって」
「・・・」
「だってこっちがジタバタしたって、あっちはもう彼女いるじゃん?だからいいやーってさ」
沢野も諦めたようで諦めていない。
そんな感じがする。
ふぅーっと息を吐いてから、体育座りをした。
「なーんか。アイツの傍にただいられるだけでも、いいのかなーとね」
手を頬にあてて、にたっと。
得意げに、少しうっとりとして笑った。
沢野はそれで納得したみたいで、本原とのことを色々と話してくれた。
「そっか。とりあえず仲直りはお互いに果たせたな」
「そうだね?」
「・・・いきなり過ぎたのかな」
「?」
窓から外を見た。
少し強い風が吹いている。
「いきなり迫りすぎたかな」
ぼんやりと。
独り言みたいに言った。
俺は、千田とどうなりたかったんだろう。
付き合って、恋人になって。
それらしいことをしたかったのだろうか。
でも男相手だ。そう考えると、今となってはそれは少し怖いことのように思えた。
だったら、どうしたかったんだろう。
今、どうしたいんだろう。
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