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9にしおりをはさみました!
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「ありえない。お前俺をなんだと思っている。前から馬鹿だと思っていたがやはり馬鹿だろう」
「そっかー。何でもやるって言ったけど、教師って一度言ったことでも簡単に曲げるんですね。生徒として今後の人生の参考にしますね」
「お、お前っ。こんな時ばっかり…っ」
そんな言い方はずるい。
確かに何でもしてやるとは言ったが、さすがにこんなものを着るなんて想定外だ。
第一俺は31歳であり仮にも准教授という立場だ。
恋人とはいえ生徒の前でこんな女装などした日には、それこそ俺のプライドがズタズタにされる。
というか俺がそんな格好したところで単純に気持ち悪いだろう。
「大丈夫ですよ。みーちゃん美人さんだから絶対似合います。俺が保証しますっ」
「なんの保証だ。全然嬉しくないし、着ないと言っているだろう」
「別に俺の前だからいいじゃないですか」
「嫌だっ。絶対に嫌だ」
メイド服片手に羞恥でプルプルと震えつつ訴える。
本気で勘弁してくれ。
「えーっ、俺すげー楽しみにしてたのに。一生のお願いですっ」
「嫌だ。絶対に着ない」
いくらなんでもこんな格好出来るか。
たたでさえ男子大学生と如何わしいことをしていて後ろめたい立場というのに、女装なんかした日にはいよいよ警察もびっくりの一発アウトだ。
というかこんな物に一生のお願いを使うな。
断固とした態度でフイと顔を背けると、七海が息を吐き出した。
「…分かりました。みーちゃんがそんなに嫌ならしょうがないです」
「あ、ああ。良かった。分かってくれたか」
「…あーあ。残念です」
そう言いながら明らかに意気消沈しながらため息を吐かれる。
いまだかつてないほどしょんぼりと落ち込んだような姿を見せられて、慌ててしまう。
「こ、これ以外ならなんでも言うこと聞いてやるからっ。ほら、欲しいものがあればなんでも買ってやるし…っ」
「ほんとですか?じゃあローター仕込んだまま講義してもらっていいですか。遠隔式で前立腺ガン攻めできるやつが欲しいです」
「――お、お前っ、変態っ」
「何でもするって言ったじゃないですか。どっちがいいんですか。今ここで女装するのと、講義しながらロータープレイするのと」
「う…っ」
どう考えてもどっちも嫌だ。
が、リスクを考えるともちろん家での行為のほうがいい。
どちらかを選ばなければいけない義理なんて無いはずだが、七海の勢いに乗せられてじわりと目に涙が滲む。
泣きそうになったらいつもすぐに折れてくれるのに、今日に限っては全然ダメだ。
有無を言わせぬ視線がいいから早くこれを着ろと言っている。
頭の中で抵抗する気持ちと、七海の機嫌を損ねたくない気持ちとがぐるぐると混同する。
早く、早くと急かすような七海の強い視線に押されて、もはや頭の中はパニック状態だ。
そして、しばらくのやり取りの後。
「……わ、分かった。本当に一瞬だけだからな」
ついに心が屈してしまった。
その瞬間、プレゼントを上げた時の数倍は嬉しそうな顔で七海に喜ばれた。
「みーちゃん。まーだですか」
七海の弾んだ声が室内に響く。
さすがに見てる前で着替えるのは心苦しすぎるので、ひとまず後ろを向いてもらった。
クリーニング済みのビニールの袋が被っているそれを手にして、一体どうしてこうなってしまったんだと頭を抱える。
「もーいーかい」
どう見てもウキウキした様子の七海の声が飛んでくる。
慌ててしまう。
「ま、まだだっ。絶対にこっちを見るな。い、今見たら二度と口を聞かない」
「ふふ、だいじょーぶですっ。ちゃーんと『マテ』出来ます」
本当に機嫌が良さそうだ。
鼻歌でも歌いだしそうな勢いで期待されているのが、もう後ろ姿からでも伝わってくる。
こんな状態では今更着ない、とはもう言えないだろう。
そもそも一度言い始めた七海を今まで止められた記憶など俺にはない。
紙袋の中にはあろうことか女物の下着まで入っていて、タグがついていることから新品なのは分かるが一体どこでこれを仕入れてきたんだ。
結城から貰ったと言っていたが、アイツどんな気持ちでこれを七海に渡したんだ。
どう考えても、絶対に楽しんでいたに決まっている。
ニヤけた結城の顔が浮かんできて、イラッと青筋が立つ。
そもそもこの窮地に立たされて初めて気付いたが、七海はゲイであって女に興味などないのではないか。
よって女装をさせることが性癖というわけでもないはずだ。
つまりコイツの目的は間違いなく、俺が恥ずかしがっている姿を見て楽しみたい、というわけだ。
この悪趣味のバカ犬が。
ならば意地でも恥ずかしがってなどやるものか。
「どうだ」
「おおーっ」
もう割り切って恥を凌いで目の前に出てやる。
肩にかかるセミロングのウィッグを払って、フンと鼻で笑ってやる。
この格好にはそぐわないと思いご丁寧に眼鏡も外してやった。
31歳男が未成年の前で女装とかもう目も当てられない事実だが、今だけは頭の中を無にすると決めた。
そして今日の出来事は俺の記憶から永遠に葬り去られる事だろう。
「やっば!すげー似合うっ。ちょー可愛いですっ」
「と、当然だ。やるからには中途半端なことはしない」
完全に開き直ってウィッグまで被ってやったが、ただし結城が着ていたものだから服のサイズが少し小さい。
スースーする足とぴっちりと張り付くような下着が気持ち悪くて、スカートの裾をグイグイと下に引っ張りながら七海から視線をそらす。
が、ぴらっと七海に横からスカートを捲くられた。
「おおっ、さすがに下着はみーちゃんには無理かなーって思ったのにノリノリじゃないですかっ」
「――は?ち、違うっ。そういうわけでは…っ」
「絶対無理だと思ってたのに自分から履いてくれて嬉しいです」
「だ、だから違うっ」
それでは俺が女装好きのただの変態みたいではないか。
あるものは全部身につけねば七海の機嫌が取れないかと思ってしたことだったのに、羞恥心を煽られるような言葉に体温が上がる。
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