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第10章 side 御船にしおりをはさみました!
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第10章 side 御船
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「なあ、オレ達これからどーなんのかな?」
「何でもねえよ、こんなの。」
「すぐに八代様がまたどーにかしてくれる。」
「八代様は絶対だからな!」
「ギャハハ、それにしても…。」
下品な男達の、下品な笑い声が、
荒れた酒場に響いている。もうすでに酔いが回っているのか、小さな個室にたむろしながら酒を呷る五人の男達の顔は赤かった。
一人がゲラゲラ笑いながら、机を叩く。
「それにしても、あの野郎、
最後までバカだったよな。無駄だって分かってんのに、逆らうような真似ばっかしてよ!毎度押さえつけて殴りつけるのにも苦労したぜ、
あんなに強情なヤツは初めてだ。」
「オレは今でも胸糞わりーけどな。」
「ハハッ、お前チンコ噛まれてたもんな〜。」
「まったく可愛げがねえ。」
「でもそのおかげで虐め甲斐があったけどな。」
男達は昔話に花を咲かせるように、
嬉々として喋り続ける。忍び寄る敵が迫って来ている事も知らないで。
「今度会った時はただじゃおかねえ。」
「結局、最後まではヤれずじまいだったもんな〜。」
「なに、また退院して来たら可愛がってやれば良い。」
「そーだな、あれだけ薬漬けにしときゃ、
次からは喜んで腰振るだろ。何なら今度こそ、
性奴隷になるまで監禁してやろーぜ。」
「性格はともかく、身体の方は結構良かったからなあ。」
「ああ、白い肌に、吸い付く後ろの穴。
嫌だ嫌だって言いながらヨガる身体なんか堪んなかったぜ。」
「ハハハッ!お前、いっちばん、ねちっこく玩具で責めてたからなあ、」
「思い出したら、ヤリたくなってきたな。」
「なんなら、病室に乗り込んでヤっちまえば?
死姦プレイみたいである意味そそるかもよ。」
扉の前に立った御船は目を瞑り、しばらく、
感情を落ち着かせるように、その場で立ち止まった。ドアノブにはしっかり手が掛けられている。
「そうだな、今やったらうるさく抵抗する声も聞かずに済むしな!」
「ホンットあいつ、煩かったよな〜、なにかっちゃあ、御船御船、って。」
御船の目がゆっくり開かれる。
殺意と暴力に染まった瞳が。神経が逆立ち、
肌が戦慄する。
御船は気付かれないよう、そっと、
ドアノブを回した。男達の笑い声が直に響いてくる。
「あんあん鳴きながらさ、助けに来るはずのねえ男の名前呼んで…、でもあれはあれで、結構キタぜ。よりボロボロにしたくなって来る。」
「ギャハハハッ!ホント、愉しかったな〜!」
「オレまだやったことねーけど、二輪挿しってのはどう?」
「ああ、良いかもな、ソレ。」
音を殺し、呼吸を殺し、男達の後ろに近づいて行く。
男達はまだ気付かない。気付かずゲラゲラ笑い続けている。
「ああ、はやくヤりてェな〜、」
「…次はもっと壊してぐちゃぐちゃにボロボロに抱いてやる。」
「…どうやって?」
酒を呷った男の耳に低く囁いた。一瞬、男達の動きが止まる。
固まり、突然割り込んできた声の方に、一斉に視線を向けた。屈み込む御船の姿を確認して、赤かった顔が一瞬にして青ざめた。
「…ッな、オマエ!」
「御船…ッ!」
後ろを振り返りそうになった男の頭をグイと後ろに引っ掴み、そのまま勢いをつけて酒瓶がゴロゴロ転がる机に叩きつけた。
ガシャン!と瓶が床に落ちて割れる。
男が呻き声を上げた。
「てめえの面は、一番よく覚えてるぜ、
トイレで、あいつの顔を思いきり
殴ってくれたヤツだもんな?ほら動くんじゃねえ。」
残りの男達が立ち上がり、御船に殴りかかろうとした所を殺気を放ち鋭く睨みつけながら、ドスの効いた声で牽制する。
「謹慎中のご身分の中、こんな所で酒飲んで、
あげく騒ぎになんてなりたくねえだろ?
場所を変える、そら立て。」
机に押し付けていた頭を持ち上げ、
無理矢理立たせる。他の四人も唇を噛み締め、
悔しそうに、部屋を出て行く御船の背中に従った。
夜の公園は冷える。
辺りには木や草が生い茂り、所々にゴミや空き缶が転がっていた。木々の間からちらつき出した星を見上げ、御船はふと、七瀬は今どうしているだろうか、
と考えた。
きっとまだ眠っているだろう。
あの静かな病室で、傷の癒えない身体を横たえて。死んだような美しい顔をして。
眉を寄せ、少し目を閉じ、風を感じると、
後ろで男達が動く気配を感じた。
ため息をついて、再び身体に殺気をこめる。
ーーーいけねえ、集中しろ。
そう思った瞬間、
シュッと後ろから男の拳が飛んできた。
御船はスルリとかわして、逆にその腕を掴み、
腹に蹴りを入れる。
「…ッゔ!」
どさりと男の身体が草むらに転がる。
続いて男達が一斉に声を上げて、御船に
殴りかかってきた。
ーーー馬鹿が…、数で押せば。どうにかなると驕りやがって。
その攻撃も素早くかわしながら、男達の頭や腹や顔に蹴りや殴りを何発も入れていく。
ドサドサと音を立てて、男達が、蹲った。
呻き声や叫び声をあげて、
更に近づく御船を恐怖の顔で見上げ、
慌てて逃げを打とうと這いつくばる。
「…ッ待っ、待て、御船!
オレは七瀬に暴力を振るったわけじゃねぇんだ!
会長の命令で仕方なく…ッグア!」
「てめえが気安くあいつの名前を呼ぶんじゃねえ。」
這いつくばる男の顔を勢いよく蹴る。
男は血を吐いて、苦しみ、悶えながらむせる。
御船は屈みこんで、その男の髪を掴み、血と涙に歪んだ顔を持ち上げた。
「情けねえな、図体ばっかりデカいクセして。
…アイツは何にも言わなかったぜ?」
ーーーそう。
何も言わなかった。
あんな状態になってまで。
あんな仕打ちを受けてまで。
八代達への憎しみも、御船への恨み言も、
最後まで、何も言わなかった。
あろうことか、御船の身体の心配をして、
その手を伸ばした。
泣きそうに、顔を歪めながら。
ーーーあの時…、
御船は心臓を鷲掴みにされたような衝撃が、
全身に走った。
ーーー何を言ってる…、何を言ってるんだ、このバカは…。
あの状態で、どうして俺の心配なんか出来る?
何で、そんな身体で、俺に謝ったりするんだ…。
怖かったはずだ。いきなり、
いきなり知らない男達に連れ去られ、暴行と強引な刺激を受け、
四日間もずっと、逃げられない場所に閉じ込められて、大量の薬を飲まされて…。
辛くなかったはずがない。
その後だって、身体も心も鬼のように痛めつけられて、
ーーー苦しかっただろう?
泣いて喚いて、詰って当然だ。心が狂ってしまったって何らおかしくはない。
俺はお前が一番苦しい時、助けに行けなかった。そして、この一連の罪は全て俺にある。
怒りと憎しみをぶつけられた方が、何倍もマシだった。
七瀬の曲がらない優しさは、御船にとって狂おしすぎる。心も身体も、刃を突き立てられるよりずっと痛かった。
溢れ出る愛おしさで溺れて死にそうになる。
ーーーやめろ、やめてくれ。
そんな風に笑うな。もっと、俺を責めろ。
この無能野郎、と言って、俺をなじれ。
ーーー縋ってくれ。押し付けてくれ、その傷みも苦しみも全部…。
しかし、七瀬はそんな御船の想いとは裏腹に、
御船の頬を包み込み、閉じかけて行く意識の中で微笑んだ。
「ゆ、るしてくれ…、これで、最後だから…。」
呼吸が止まった。
世界も音も時間も、本当に何もかも止まってしまったような気がした。
ただ、重ねられた唇の濡れた温度と、
わずかな血の味だけが、
後に残った。
そしてその直後、崩れ落ちるようにして御船の腕の中に倒れた七瀬を見た瞬間、
御船は本当に、自分を殺してやりたくなった。
ーーーあの時の…、
「…あの時の、俺の気持ちが分かるか?」
髪を掴み、持ち上げた男の顔に、
そっと問いかける。男は惨めに嗚咽をあげ、
泣きじゃくっていた。
御船の表情は、依然冷えたまま変わらない。
「あの時の…、あいつの気持ちが分かるかよ?」
「あ、あ、もう、ゆるじで…っ!」
御船はフッと小さな冷笑を浮かべた。
ーーー分かんねえだろうなあ、お前らには。
分かるわけねえよな?
「がああっ!」
立ち上がり、男の手を踏みつける。
ギリギリと砕けてしまうくらいにまで、足を押し付ける。
忌々しい。叫び声も、血も、涙も、その身体も。
ーーーこの声で、この手で、このおぞましい身体で、七瀬を泣かせて…、
今すぐに、バラバラに引き裂いてこの世から消し去ってやりたい。
すると、後ろでカサリと、草を踏む音がした。
よろよろと男の一人が立ち上がり、御船を目がけて拳をあげて来る。
さっき、飲み屋で机に叩きつけた男だ。
御船は片手で拳を受け止めて、ゆっくりと男を振り向き、
冷酷な笑みを浮かべる。
「…そう逸るなよ、ちゃんと、お前の相手もしてやるから。」
そして、男に反撃を与えぬまま、
首元を引っ掴み、その身体ごと地面に叩きつけた。
「…ぐあ!」
そして、その男の顔に思いっきり、拳を入れる。一発、二発、…。
男が完全に意識を失った所で、身体をあげ、
辺りを見渡す。
どの男も完全に伸びているようだ。
指一つピクリとも動かないが、
一応、息はしているらしい。
御船は深い深い、ため息をついた。
先程の男達の会話が蘇る。
殺意が再び渦を巻いて、身体を動かそうとするが、なんとか、すんでのところで押さえ込む。
ーーーダメだ…。これ以上は、まずい。
長倉との約束がある。それにまだ、もう一つ、
やらなければならない事がある。
ーーーそれに何より、
七瀬を置いていくワケにはいかない。
アイツを先に行かせもしない。
監禁時、何度も何度も、『御船』と呼んでいたという話を思い出して、また胸が詰まった。
ーーーここに居る。
ずっと、傍にいる。
もう絶対、見失ったりしないから、
だから帰ってきてくれ。
今度こそ、絶対、守ってみせるから…。
瞬く星を見上げ、目を瞑ったところで、
御船は公園を後にした。
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