アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
36にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
36
-
食事室へ入ると、すでに着席していたアーサーと
テーブル上に並んだ朝食が目に入った。
「兄様!お姫さま!おはようございます!ふふっ、チビたちも。さあ、早くご一緒しましょう?」
「アーサー様、おはようございます。はい、是非」
「ああ。…席に着くぞ。サラン、こっちだ」
今までは、高台のような場所にフィオリとサランの席があり、従者たちを見下ろすような広間で食べていたのだが、ここは違う。
中二階は存在せず、大きめのテーブルと椅子が6脚あるだけ。従者の姿が見えない。フィオリの言った通り、解雇されたのだろう。
フィオリはアーサーと向き合うように座り、サランはフィオリの横に座った。子どもたちはと言うと、当たり前だが用意してある椅子に座ってもテーブルに手が届かないため、特別にテーブルの上に座ることを許可された。
サランが目覚めるまでの期間、もしかしたらこの部屋で食事をしていたのかもしれない。現に子どもたちはテーブルの上にためらうこともなくサランの腕から飛び降りたのだから。
「では、いただこうか」
「はい。…いただきます」
「いただきまーす」
「ギャーウー」「キャーウー」
テーブルの中央にはローストビーフなどの肉類や葉野菜、果物が並び、手前の手の届く範囲には1人ずつグラスに入った果実水とスープ、パンが用意されていた。
「サラン、食べられるだけ食べるといい」
「はい、王様…」
パンを一口かじり水で喉を潤す。美味しい。
幸せだなと感じていると、子どもたちがはしゃぐ声が聞こえた。
「わぁ、すごい食べっぷりだね、チビたち」
「えっ?」
そこには生肉を身体全部を使って噛み切ろうとしてもがく子供達の姿があった。
アーサーが取り分けてくれたのだろうか、皿いっぱいに肉が乗っている。
「サラン。獣化できる我らは本来母親の乳を飲むことなどないのだ。このように、あるものはなんでも食べる」
「じゅう、か?」
「えっ?!チビたち、お姫さまの乳吸いをしていたと言うの?!」
「…ああ、硬い肉…そういうことでしたか…」
サランが獣化という単語に戸惑っていると、アーサーが驚きむせてしまった。そして、扉から入ってきたレミルの声も聞こえてきた。
「え、あの…」
よくわからないが、アーサーの驚きっぷりに圧され、サランは自分が悪いことをしてしまったような気がして不安になってしまった。それに、じゅうかとは何かもわからず付いていけない…。
「泣くなサラン」
目元をキスされ、フィオリの目を見つめる。やはり深い青の瞳が美しく、フィオリの雄々しさを一層引き立てると同時に、その優しい眼差しがサランに落ち着きを戻す。
「はい、王様…」
「いい子だサラン。お前は間違ったことはしていない。
我たちは母親が…いや、他の者が世話をして育てるという習慣があった。だから乳をもらったことがない。
サランはサランの母親からされたことを受け継いだまで。
おかしいことなどない。
自分を責めるな」
「はい…」
「まだ、聞きたいことがあるのだろう。食後に話そうか」
「はい、嬉しいです、王様…」
サランの意図を汲み取るフィオリ。なんとも格好良く
感じて、サランは嬉しさと安堵で胸がほわほわと弾む。わたしが好きになった人がこんなにも好ましい優しさがあるのだ。そんな人に好いてもらえたと考えると嬉しさでどきどきと音がなる。
「アーサー、お前はもう少し落ち着け。今後はまた国外に行くのもいいが、いずれはお前も所帯を持つのだから」
「はい、兄様。
…お姫さま、俺が騒いでしまってごめんなさい」
「いえ、アーサー様。わたしには知らないことが多いのです…ですからアーサー様のお陰で1つ知ることができました。また、教えてください」
「もちろんですよ、お姫さまっ」
「レミル、お前も共に食すか?するべきことが多すぎて時間が足りない」
「ええ?…ああ、それもそうですね…。
では仰せの通りに」
そういうとアーサーの横の席に座り、食事し始めた。
サランと目が合うと微笑んだため、サランも微笑み返した。
それから雑談して楽しく食事をし、たくさん食べたと
お腹を撫でた頃。子どもたちが白色の毛並みを肉の血やソースでベチャベチャになっていることに気づいた。
「ティラシュア、エルディオ…大丈夫?目は痛くない?」
「ギャウ!」「キャウ!」
「…痛くは、無いのですね。よかった…ふふ、こちらにおいで。拭ってあげますからね」
サランは手元にあったナプキンで、そっと目元を拭ってやる。すると、かなり汚していたのかナプキンの色が変わっていく。
「ふふふ、ティラは鼻にまで付いているのね」
「エルは耳にも?ふふ、2人とも、お腹はいっぱい食べれた?」
「ギャウー」「キャウー」
そんな微笑ましい光景を見た3人は、また思うことが違うようだ。
(やはり、今日のお肉は硬すぎたのでしょうか…もう少し食べやすいサイズに切って出すように料理人に伝えましょう)
レミルは微笑んだ。
(わあ、これが家族…シエル様みたいな優しい人、よかったねぇティラ、エル。ちょっと羨ましいな)
アーサーは自分の幼少期がこれだと良かったのに、と一瞬暗い気配が出たが笑顔で打ち消した。
(…行儀がなっていないな…)
フィオリはとにかく子どもたちの立場が気にくわないようだ。孕ませたのは自分なのだが、サランの意識が子どもだけに向けられるというのは納得がいかない。
ガチャンッ!
「…すまないサラン…ワインをこぼした…」
「王様っ、お怪我は?」
「無い」
(わぁー…兄様…今のは…)
(王よ…貴方…嘘でしょう?)
サランはナプキンを畳み直し、綺麗な面でフィオリの手にかかった汚れを取っていく。
「お洋服はシミが取れなくなってしまうかもしれませんね…早く洗うと取りやすいのですが…」
「ふむ。では共に湯船に浸かるぞサラン。そこの2匹もだ。レミル、アーサー、食事は済んだか?書斎に書類を用意した。やることはわかっているな?」
「ええ。もちろん」
「はい、食事は済みましたので。庶務をお手伝いします」
フィオリの顔が誇らしそうだ。サランに手を握られて拭かれていることが嬉しいのだろう。先ほどのはどう見ても意図的にワイングラスを倒していた。
「では行くぞ、サラン。エル、ティラ」
「はい。ご馳走様でした…」
「キャウー」「ガウ」
ふりふり、と手を振ってその後ろ姿を見送るレミルとアーサー。
「…あれが、幸せの形?…なんだよね?レミル」
「ええ…。そうですね…あの人、あんな甘えたがりだったとは…愛は人を変えるんですね…」
とりあえず、フィオリとサランが幸せそうでよかった。
と、2人も食事室を後にした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
36 / 85