アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
ヒーターの導入(3)にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
ヒーターの導入(3)
-
「つしま、起きろ!起きろよー!」
誠の声が聞こえる。文字にするなら、津島じゃなくて、つしまって書きたくなる、どこか甘えたような呼び方。これは絶対誠だ。
呼んでいるけど、俺は起きたくない。だってぐっすりすやすや寝てるんだから。
「なあ起きろってー!起きないなら俺が昼ごはん作るぞ?」
「やめろ!殺す気か!」
そう叫んで目を開けると、誠はにやにやしながら僕の顔を見ていた。
「おはよう、つしま。もう12時過ぎてるけど」
「いいだろ今日は会社休みなんだし…」
「だってお腹空いたもん。つしまのご飯が食べたいもん」
「別に、そんなにおいしいもんでもないのに」
「おいしいよ!つしまは俺の見たことないものをいっぱい作ってくれる」
「見たことないって、お前が料理を知らなすぎなんだろー?」
「んー?ふふふ」
誠は機嫌よく笑ってごまかした。
起き上がって冷蔵庫を開けると、肉やら野菜やら使いきれないくらい色んな食材が入っていた。誠が買ってきたんだろうか。どんだけ食べる気だ。
「それにしても、こんな時間まで寝るなんて、疲れてるの?会社忙しい?」
誠は俺の後ろをとことこついてきた。前に言ってたけど、料理してるところを見るのが好きらしい。本当に、大したもの作れるわけじゃないのに。
「んーまあ…。今関わってる製品のプロジェクト、あんまり上手くいってなくて」
「そっかぁ。つしまも大変だなー」
「俺は…全然戦力になれないし…」
「なんで?つしま頑張って働いてるじゃん!」
誠は俺の顔を見てにこっと笑った。
「仕事頑張ってて、料理もできるなんて、俺尊敬するよ!」
「そうかなぁ…」
誠はいつも明るい。俺みたいにくよくよ悩んでいるところなんて見たことがない。だから誠と話すと、俺も引っ張られて明るい気分になってくる。
「ねえ、何作るの?炒飯?ひやちゅう?ラーメン?」
「中華が食いたいのか?」
「うん!誠の中華おいしいもん。ね、トンテキ!」
誠は振り返って水槽を見た。水槽の中ではなまずが泳いでいる。
「トンテキ?それはまこちゃん……あれ…?」
そこでふと気づいてしまった。
これ、夢だ。
誠がまだ家にいた頃のこと、夢で見てるんだ。
その瞬間、視界がぼやけていく。誠の顔もまこちゃんの姿も見えなくなって、次に見えてきた光景に、俺の心臓がドクンと震えた。
「ただいま…?電気点けないのか?」
暗い部屋で誠が何かの紙を見つめていた。
パチリと電気を点けると、誠は慌てて紙を後ろに隠した。
「あ、つしま。おかえり」
「おー…?」
誠はいつものように笑っているが、雰囲気が暗くて、どこか作り物の笑顔のように見えた。
「どうした?何見てたんだ?」
「ううん。なんでもない」
「なんでもないって…じゃあ、何食べる?晩ごはん。急いで作るから…」
「ごめん。今日は外で食べてきたんだ」
「そ、そうか…」
「ちょっと疲れちゃったかも。早いけどお風呂入って寝ようかな」
誠は紙を引き出しにしまい、風呂へ向かった。
絶対、何かあったな。何かが…
チラッと引き出しを見る。
…めちゃくちゃ気になる。何見てたんだろう。
次の瞬間、引き出しに手を伸ばしていた。
だって、誠は何も教えてくれなさそうだし。見たら誠を慰められるかもしれないし。
いやでも…俺には見られたくないものだったりして…。
迷っているうちに風呂の方からバタバタと音が聞こえてきたから、俺は慌てて食事の準備を始めた。
その後食器を片付けて風呂に入ると、宣言通り誠は布団に潜ってしまっていた。もうちょっと話が聞きたかったけど、仕方なく、俺も隣に布団を敷いて寝ることにした。
「誠?電気消すぞ」
「…うん」
まだ眠ってはいなかったらしく、誠は小さな声で返事をした。
反対を向いて寝ている背中を見ながら、俺は誠のことを考えていた。
思い返すと、誠はあんまり自分のことを教えてくれなかった。8年も同居しているのに、俺は誠の家族を知らないし、実家の場所もわからない。昔の思い出話も、付き合ってる人がいるのかどうかも、聞いたことがない。俺が知っているのは、ただ誠が毎日楽しそうに生きていることだけ。よく笑って、よく食べて、些細なことに感動する。
…でも、それが誠の全てであるわけがない。
「誠」
背中に向かって呼びかけた。返事はないけど、たぶん聞いてくれてるはずだ。
「俺、もっと誠のことが知りたい。辛いことがあったら、俺にも話してほしい。頼りないかもしれないけど、俺は誠の味方だよ」
しばらく無言が続いた後、誠はもぞもぞと動いて俺の方を向いた。
「………つしま」
誠の頬に、涙がついていた。
「今日は一緒に寝てもいい?」
「いいよ」
布団に入ってきた誠の体は、少し震えていた。
「誠…大丈夫か?」
「大丈夫。つしまの布団、あったかくて…安心する…」
誠の目から、涙が次々とこぼれてきた。
「あれっ…ごめん。変だな…」
「誠!」
見ていられなくて、思わず誠の体を抱きしめていた。
「うっ…ううっ…つしまぁ…」
誠は声を出して泣き出した。
こんな時なのに、誠の体温や体の柔らかさに、なぜかドキドキしてしまう。
ここまで近くで誠を感じるのは初めてだった。
「俺、つしまに隠してたことがあるんだ」
「え…?」
「聞いてくれる?」
「うん」
誠は涙で濡れた目で俺を見つめた。
「俺、ほんとは…」
だめだ。この先は。この先は思い出したくない。
そう思った瞬間、誠の顔がパッと消えて、俺の意識は覚醒した。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
16 / 25