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ヒーターの導入(4)
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「…あ、起きた」
目がさめると、味噌汁のいい匂いがして、沢口の声が聞こえた。
「…俺、寝言とか言ってなかった?」
キッチンに立つ沢口を眠い目で見ながら聞くと、沢口はくすっと笑った。
「いや。それはもうぐっすりすやすや寝てたぞ」
「お前ぇ…いや、そもそも沢口が先に寝落ちしたんだろ。酒飲みすぎ」
「あはは、すまんな。布団に入れてくれてありがとう」
「感謝しろよほんと。…ところで、何作ってるの?」
「朝ごはん。ご飯と油揚げの味噌汁とだし巻き卵と塩ジャケ」
「はあ?豪華な朝ごはんだな。沢口何目指してるの?」
「津島の嫁」
「えっ?」
「冗談」
「ああ…」
上手く反応できずに微妙な空気が流れてる気がする。俺がもごもごしているうちに、豪華な朝ごはんは食卓に並べられた。
「いただきます」
「いただきます…」
沢口の料理はいつも美味しい。それに、なんというか、ちゃんとしたご飯を作る。それこそ花嫁修行でもしてるんですかってくらい家庭的な料理だ。
「うまいか?」
「うん。沢口の家の子になった気分」
「はは、そりゃよかった。なんなら本当にうちの子になる?」
「んえ?」
沢口は箸を置き、俺の目を見た。
「俺の部屋に引っ越してこない?」
「えっ…と…」
返事に詰まり、まこちゃんの水槽をちらっと見た。
「なまずなら一緒に引っ越しすればいいじゃん。大平、取りに来ないんだろ?」
「……わかんない」
「来ないよ、もう」
「いやでも、わかんないし…」
「あいつ結婚したんだって」
「………へ?」
誠が、結婚?
どうして…
急な情報に、頭の中が真っ白になる。
ひたすらぽかんとしている俺に、沢口はスマホを差し出した。
「これ、見ろよ。昨日見つけたんだ」
無言でスマホを受け取り、画面を見た。
大物政治家の息子と建設会社の社長の娘が結婚したというニュース記事だ。そしてその写真には、確かに誠が写っていた。
「あいつ政治家の息子だったの?」
「なんでこんなところにいたのかはわからないけど、政略結婚のために実家に呼び戻されたってところだな。とにかくもう、ここには来ないだろう」
何も言えず震えている俺の手を、沢口が両手で包んだ。
「なあ、津島」
「…うん」
「俺、津島のことが好きだ」
「なっ…」
沢口は俺の手を引っ張り、胸に当てた。沢口の心臓の鼓動が速く強くなっているの感じる。
「誠のことは忘れて、俺と付き合えよ」
こんな真剣な表情の沢口、初めて見た。
なんて返せばいいのか…。
「おっ、俺はそもそも、誠とは何も…」
「そうなのか?」
「だって、男同士じゃん。いくら同居してるからって、普通、恋愛関係になんてならないよ」
「男同士じゃ恋愛は無理か?」
沢口に手を離され、はっとした。
俺、また間違えた。間接的に沢口を否定するようなこと…
「や、その、俺は…」
口をパクパクさせていると、沢口はすっと立ち上がった。
「ま、待って!」
俺はとっさに沢口の前に立った。
「あの…返事、ちょっと待ってほしい」
「待ったらお前は変わるのか?」
「え、えっと、とにかく待ってよ…」
「…ふっ」
沢口は急に吹き出した。
「なんで津島がそんなに必死なの?」
「あー、そうだね…」
「わかった。そんなに言うなら待つ」
「…ありがとう」
うつむいていると、沢口に頭をくしゃっと撫でられた。
「じゃあな。また会社で」
「うん」
沢口は朝ごはんを食べきらずに帰ってしまった。
すごすごと食卓に戻り、2人分の朝ごはんを食べていると
ザバァ
水槽から大きな水音が聞こえ、ずいぶん久しぶりに全裸のまこちゃんが立っていた。
「まこちゃん!もう会えないのかと思った!」
「ようつしま。魚の世話にずいぶん慣れたな。何も言うことがないから出られなかったぞ」
「そっかー嬉しいな。じゃあ今日は?何か言いたいことがあるんだよね?」
「あるぞ。ところで」
「何?」
「まこと、結婚したのか?」
「うっ……」
まこちゃんはまっすぐ俺を見つめている。
ついに、この時が来てしまった。
誠について、まこちゃんにちゃんと説明しないといけない時が。
「…誠は」
「まあその話は置いといて」
「ん?!」
「今日はヒーターについて伝えに来た」
なんだなんだ?
まこちゃんの中での優先順位は、誠よりヒーターが上なのか?
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