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「おわったーーーー!!!つっかれた〜〜!!!」
二百部全てのホッチキス留めが終わった頃にはもう
辺りはすっかり暗くなっていた。
昼間の賑やかな大学が嘘のように静まり返り
いつもよりほんの少し不気味な雰囲気が漂っている。
ふぅ、と息を吐く
さすがに疲れたな
「二葉さんもお疲れ様です〜!」
「……」
くしゃっと少しの疲労を含んだ笑み
返事はせずに帰りの支度を始める。
「あ!ちょっと待っててくださいね!すぐ戻ってくるから!!」
「は?あ、おい!」
次の瞬間にはハッと目を大きくさせ
ミルクティー色は研究室を出て行った。
「なんなんだよ……」
当然俺の声に返事が返ってくるわけもなく
待っている義理もないため自分の荷物を確認して研究室を出る。
今までいた棟を出て振り返ると
まだチラホラ明かりがついていた。
この棟に残っているのは研究室に篭もった理系と
俺たちみたいな雑用係くらいなのだろう
と、
「ちょ!二葉さーん!待っててって言ったじゃん!!」
「誰もわかったなんて言ってないだろ」
無意識に返事をしていたことに気づき口元に手をやる。
なに普通に返事してんだ。
出てきたばかりの棟から駆け足で
柔らかそうな髪を揺らして近づいてくるミルクティー色
え〜、と声を漏らしたそいつは俺の反応などお構い無しに何かを差し出してくる。
「なに、」
「お疲れかなーと思って!はいコレ!疲れた時は甘いもんでしょ!」
「いや、いらね」
「いーからいーから!」
と無理やり何かを握らされる。
冷たく濡れた感触に少し驚きつつその正体を探りながら
それに書かれた文字を目で追う。
……いちごみるく?
「これ、めっちゃ甘くて疲れた時にはいいんですよ〜!よかったら飲んでみてください!」
「は?いや、だから、」
「じゃ、また〜!!!」
「まっ、」
待て、そう言おうとしたがわざわざ引き止める理由はなく
伸ばしかけた手は空を切りその場で立ち止まる。
ブンブンと手を振って遠ざかっていく姿を眺めた。
なんなんだよ、あいつ
いきなりこんなもん押し付けて
……大体俺、そんなに甘いもん好きじゃねえんだけど
押し付けられたものとはいえ、一応は貰ったわけだから捨てるのも何となくいけないことのような気がして付属のストローをパックに差し込んだ。
一口、口に含むと途端に広がる甘味
いちごミルクなんて飲んだのいつぶりだっけか
「あま……」
暗がりの中、夕日が差し込む研究室を思い出した。
窓から差し込む光が伏し目がちな目元に陰を作り
明るめの髪を一層輝かせていた。
無意識に歯を立てたストローでもう一口
「やっぱ、甘え……」
味はさっきと変わらないはずなのに
一段と甘く感じたのは
きっと、ただの気のせいだ。
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