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月が夜空に浮かび…それを霧のような雲が隠していく。
ゆっくりと黒に染まっていく月は、まるで自分の心を現しているようにも見え、そっと視線を外した。
「…………。」
彼はどうして此処に来るのだろう…
問いても問いても明かされぬ答えを、頭に浮かべては消し去る。
自分の気持ちに気付かれていないだろうか…と不安を抱える。
見上げれば月はまた、明るくなっていた。
久し振りに自分が笑えた。
いつ振りだったろうか…自分でさえも驚いてしまった。
少しづつ何かが変わっているような気がする…
けれど、許しては貰えない変化だと…
手元の文が伝えてくる。
嗚呼、苦しい。
『………。』
朝起きると文が届いていた。
それは藍染百合さんからだった。
『全く……どうしてこうもこの御方は…』
文の内容を纏めると…
ー離れには近付くな。ー
といった内容で…何故近づいてはならないのかは書かれていなかった。
俺はただ純粋に仲良くなりたいだけなのに…
いや…
もしかしたら違うのかも知れない。
自分が今までこんなにも執着したものはあったろうか?
自分が今までこんなにも想った人は居ただろうか?
『………。』
口元が緩むのを、手で抑え込む。
嗚呼、会いたい。
朝日が昇る前、自然と瞼が開いた。
ひやりとした空気が身体を撫で、身を震わす。
息を吐けば白く、余計に寒さを誘い込んだ。
「寒い…」
床から身を離し、囲炉裏に向かう。
いつもは相楽が来て火をくべるのだが、この時間に起床してしまったため火は灯いてない。
薪を取り火を起こす。
ゆっくりと燃え始め、部屋がほんのりと明るくなっていった。
「…。」
照らされている部分が暖かくなっていく…
薪を手に取り注ぎ足す。
火が見る見るうちに広がっていく。
早く暖かくなってほしい。
そんな事を考えながら横になる。
パチパチと耳に心地良い音が流れ込み、瞼を閉じる…
妹の婚約者を好きになってしまった…許されぬ想い。
伝えられることは決してない想い。
離れてみていたあの頃よりも、ずっと苦しい…
嗚呼、叶わぬ想いをどうして抱いてしまったんだ。
母上から届いた文の内容を思い出す…
‐これ以上御子息様に近付いたら貴方を殺める‐
親とは思えぬ内容だった…
己の命は惜しくはない…けれど、彼を見られなくなると思うと死にたくは無かった。
突き放したとて、きっと彼は此処に来てしまう…
外へと繋がる全ての場所に鍵をしてしまおうか。
そしてそのまま己の心にも鍵を…
「…。」
気が付けば頬には涙が伝っていた…
こんなにも恋い焦がれている……なのに許されない。
会いたい……
彼を愛している。
そうだ…近付けぬのならば、文はどうか…?
身体を動かし、机へと向かう。
確か引き出しの中には便箋が居たはずだ…
「あった…」
何を書こう…何を伝えよう。
少しだけ心が浮ついた…
文など書いたことは一度も無い……初めて送る相手が愛しい貴方だなんて、どれほど幸せな事だろうか。
嗚呼、愛しい……
愛しい貴方へ
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