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ロミオとジュリエット 18にしおりをはさみました!
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ロミオとジュリエット 18
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楠本氏が帰った後、「大丈夫なの?」と結は心配そうに私に聞いた。
楠本氏には、”考え”があるから協力しろ、と啖呵(たんか)を切ってしまったがあるわけではない。
ああでも言わなければ、楠本氏は引き下がらない。
そう、"策"は、これから考える。
自分のスマホで、週刊Bez誌のサイトにつなげてみる。
”道ノ瀬結、初熱愛報道、相手はなんと男性か!?”の記事だ。
掲載写真は3枚で、1枚目は、車の中で別れを惜しんでキスしている写真が後ろから撮られている。
これでは誰だかわからない。
2枚目は車から出て来る、道ノ瀬結らしき人物。霧が出ていてほぼシルエット。ただ、結と親しい人物かファンなら結と分かるかもしれない。
3枚目は、道ノ瀬結だとはっきり分かる。
あの朝は、霧が深かった。
ずいぶんと至近距離で撮られたものだ。不覚にも気が付かなかった。
こんな至近距離から撮られていては、車種や、車のナンバーも見られただろう。
週刊Bezの記事には、私の名前は伏せてあった。
なぜだ?
諸橋の"標的”は私のはずだ。
私と恋仲の結を傷つけることで、私を貶めるつもりか。
と言うことは…第2段、第3段のネタがあると言うことか。
「もう、スポンサーにはばれているよね。」結は、ひどく不安そうだ。
「いや、週刊誌の書くことは過激だと企業も分かっている。世論がどう動くかだな。私たちの関係を好意的に取るか、バッシングされるか。」
「バッシング?」
今回の記事に寄せられたtwitterの意見をクリックしてみる。
予想した通りと言うか、好意的な意見と、よくもまあこれだけ差別用語を並べたものだと言うのと玉石混交だ。
「結は、しばらくネットを見るな。いちいち悩んでいては神経が持たない。」
「わかりました。」
そう言いつつも、結は私の袖口を掴んで離さない。
結は、世界一流のバレエダンサーだが、繊細な芸術家でもある。
結の繊細な神経が、破綻を来さないように、守ってやらねばならない。
しかし、私もこれ以上パリに留まることは出来なかった。
立ち去ろうとする私の気配を察して、結が言った。
「行かないで!」
私は、結を抱き寄せた。
「独りにしないで。」結は固くしがみついて来る。
「何かあったら、すぐ連絡するんだ。いいね。」
苦渋の決断だった。
結の額にキスし、そして次の瞬間、結を置き去りにした。
「東郷さんっ!!」
結の悲痛な声が耳に残る。でも、そうせざる得ない理由が私にはあった。
これから、ヨーロッパのチーム別試合・後半戦がある。
平然としている私にも不安はある。勝ち進めば、結には3週間以上会うことが出来ない。
その間、週刊Bezが何か起こさなければいいが…。
私は、車を走らせ、4時間半後にはドイツのブラオミュンヘンの駐車場にいた。
これから、選手と戦術トレーニングだ。
サッカーの戦略理論はわかっても、ピッチで状況判断しながらプレーするのは異なる。
考えるのとやるのは大違いと言うことだ。 監督の戦略を、選手の動きで体現化するには、何度も何度も練習させなければならない。
選手の身体能力の把握、仲間の動きを見て瞬発的な判断能力を育ててやる必要がある。
車を出ようとした時、私のスマホが鳴った。
登録されていない電話番号だ。
国際電話で+81の表示、日本からだ。
「はい。東郷です。」
「ん~、低くて、いい声ですね、東郷監督。お久しぶりです、東京の週刊Bezの諸橋です。」
諸橋…!?
「まずは、弊社の写真集出版に多大なご協力いただき、お礼申し上げます。」
貴様…。「要件はなんだ?」
「いえね、Bez誌次週号に、監督が載ることをお知らせしなければと思いましてね。秘書の小崎さんに電話しようかと思いましたが、写真集のお礼も兼ねて監督にお電話いたしました次第です。
次週号は、今週号の続きですよ。タイトルは、”道ノ瀬王子のお相手判明”です。」
「来週?!」
「そうです、来週号です。」
そんなに早くか、と私は思った。リーグ戦期間中で私は動けない。
「東郷監督、あなたは、”ファンに手をつけた”ってことですよね?」
「どういう意味だ?」
「だってそうでしょ、道ノ瀬結さんは元はブラオミュンヘンと東郷監督の個人的なファンに過ぎなかったわけでしょ。スタジアムで熱狂し、空港では監督にサインを求める一般ファンと同じです。
そのファンに、こともあろうに、監督が手をつけた。
でも、一般人でなくて、”道ノ瀬結”ってところが、ネタの価値を1万倍押し上げています。この記事載せたら、再販が追い付かないほど売れますよ。」諸橋のくくくっと笑い声がスマホから聞こえた。
「ファンに手をつけるって、サッカー界でも非難の的じゃないですか?
サッカー界は罰則厳しいのでしょ?」
「なぜ、私の携帯ナンバーを知っているのだ?」私は諸橋に尋ねた。
「私どもの情報網を甘く見てはいけないですよ、監督。」
「掲載の写真、ずいぶんと至近距離で撮ったものだな。」
「うちのカメラマンは腕が良いでしょう。
監督のヌード写真も大ヒット商品になりました。あなたとの付き合いはやめられません。
ヌードに、人気王子とのスキャンダル、本当に楽しませてくれます。」
「悪い趣味だな。人の私生活をのぞき見して楽しいか。なぜ、君がなぜのぞき見したいか教えてやろうか。 相手が知らないうちに自分だけ見ている。
いけないことだがやりたい、そう言うわがまま勝手な征服欲が満たされるからだよ。」
「さすが名監督、人の心理を読むことに長けていらっしゃる。そうです、のぞきたい心理を人間が持っているから、我々の週刊誌が売れるんですよ。
お手付きの王子様は、さぞやいい声で鳴くんでしょうな。」
「言葉に気をつけろ。侮辱罪で訴えるぞ。」
「盗聴にお気を付けください、監督。」
ブチっと電話は切れた。
盗聴だと?!
盗聴器でも仕掛けたというのか?
決勝リーグ1戦目で、スペインの強豪と当たり、我がブラオミュンヘンの選手、マルコが小競り合いからレッドカードを食らい一発退場になってしまった。
敵地で、11人の所を10人で戦う羽目になり、この戦いを落としてしまった。
マルコの出場停止期間は、1週間後に決定される。
レッドカードであることから、次の第2戦は絶望的だ。
3戦は微妙だ。
マルコの反則映像は、欧州サッカー協会は、相手選手の髪の毛を引っ張ったと言うものだが、本人は頭に手を置いただけだと主張している。
この2つの行為に対する罰則は大きく異なる。
相手の頭に手を置いただけなら、スポーツ的反則行為に当たるが、髪の毛を引っ張るのは暴力行為だ。
暴力行為なら、次の試合の出場停止確実、その次も危ない。
ただ、これから行う2戦とも出場停止が下された場合、私は異議申し立てを行うつもりでいる。
メディアの中には、ブラオミュンヘンの主力選手であるマルコを故意的にチームから外そうとするサッカー協会の陰謀なんて書く所もある。
次の試合は致し方ないとしても、その次も出られないのは正直痛い。
サッカー協会が、どのような処分を下すのか注目される。
何が正しいかも大事だが、駆け引きで自分のチームに有利なるよう仕向けるのも必要だ。
サッカーは”正しい”ばかりでは勝てない。時にはずるがしこい駆け引き不可欠だ。
試合は負け、マルコは出場停止の窮地の中、あの週刊誌が出る。
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