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綺麗な眼にしおりをはさみました!
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綺麗な眼
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次の日、また同じ時間帯、同じ場所にキノコや薬草を採りに行った。
「やっぱり来ないかなぁ」
人の気配を微塵も感じない森の中で独り言を呟く。
うーん、キノコをあと十個採ったらもう帰ろう。お腹すいたし。
残り十個を厳選しながら探していると、ガサガサと草を揺らす音がした。
「ん?」
「あぁ、良かった。また会えた」
振り返った先には昨日出会った人間が立っていた。
「わわっ」
いつの間にこんなに近くまで来ていたのか。ここ数十年、ずっと人間と会わなかったから警戒心が弱まっているのかもしれない。
慌てて距離を取ろうとすると、人間は「待って待って逃げないで」と両手を胸まであげて数歩下がった。
「君に危害を加えるつもりは無いよ。昨日助けてくれたしね。里のみんなに君のことを言うつもりもない」
ただお礼がしたいだけだよ、と人間は言った。
「お、お礼······?」
「うん。こんなもので悪いけど······」
人間は背中の籠から出した袋を差し出した。
警戒しながらおずおずとその袋を受け取ると、小麦の甘い香りがふわっと広がった。
「うわあ、パンだ·····!ジャムもチーズもある·····!」
お母さんとお父さんがいなくなってからご無沙汰だったパンの匂いに、お腹がきゅるきゅると鳴る。
い、いい人間だぁ······っ!
袋を抱きしめて小麦の香りを思う存分吸い込んでいると、人間がクスッと笑った。
「君の眼は本当に綺麗だね」
「へ?」
「昨日も思ったけど君は嬉しい時に目の輝きが増すんだね。瞳がキラキラ光ってガラスに映った虹みたいだ」
生まれた時からお父さんもお母さんも同じだったから特に不思議に思うことは無かったけど、確かに言われてみれば二人とも感情によって目の色が変化していた気がする。
怒っている時は赤みが増していたし、悲しんでいる時は瞳の色が濁っていた。
それが普通だと思っていたから綺麗だと褒められてもよくわからない。
······それに、この眼は呪われた眼だ。
この眼があるから、普通なら魔法使いを恐れて山奥に入ってこない人間が、魔法使いの村をめちゃくちゃにして沢山の仲間を殺したんだ。
この眼が人間の世界で高く売れたりしなければ、ずっと人間と魔法使いはお互いに干渉し合わずそれぞれ平和に暮らせていたのに。
「······こんな眼なんか······嫌いだ」
「······そう。俺は好きだよ。君に何があったのか俺はわからないけど、俺は君の眼がすごく綺麗だと思う」
あくまで個人的にね、と笑った人間に小さく心臓が跳ねた。
「あ、ごめん。もう帰らないと。君、名前は?俺ケンタロウ」
「イズミ」
「そっか!またな、イズミ」
······あの人間、この眼が好きだって言った。この眼のせいで全部壊れたのに。呪われた眼なのに。
ケンタロウが消えていった方向を見つめて服の上から胸を押さえた。
今日はなんだか、鼓動が速いな。
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