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悪夢にしおりをはさみました!
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悪夢
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帰り道は、お互いに言葉を発さなかった。
異常とも取れる沈黙であったが、今の俺たちにはそっちのほうが良い気がした。
何を言われても、問われても、正常な思考のもと答えることなど到底できそうになかったからだ。
寮に着く頃には、体の震えも収まっていた。
京は自分の部屋に戻ることなく俺についてきて、そのまま部屋に入った。
二人でベッドに腰掛けると、京は両手を組み真剣な眼差しでこちらを見てきた。
その瞬間に、今から聞かれるのだろうと悟ってしまった。
「間宮と、何があった?」
「何も……何もない」
「今更わかりきった嘘つくの?」
「嘘じゃない」
「じゃあなんであんな状態になってたの?」
「それは……」
理由は一つしか無くて口籠る。
真実を言う以外京を納得させる方法はない。
そして京は、もう冬樹君が原因だと確信している。
「間宮のこと庇うのはどうして?」
京の口調が柔らかくなった。
そして、太ももの上で握っていた拳に手が重ねられ、その力がほどけていく。
どうして、冬樹君のことを言えないんだろう。冬樹君じゃない人に同じようなことをされたら、俺は京に相談するだろうか……きっとする。
じゃあ、なぜ?
なぜ俺は、冬樹君のあれは勘違いか何かだと思おうとしているのか。
既に曖昧になった、冬樹君の言葉の羅列とその時の映像を思い起こすと、自ずとその答えが見えた。
「冬樹君、泣きそうな顔……してて」
「顔?」
予想していた答えと違う答えに、京は若干面食らったようだった。
「うん。俺が、その……中2のときの話を……されて、ね」
「うん」
この際もうあの時のことを話されたのがきっかけだということは隠しようがない。
ただ、俺がどうして冬樹君を信じたいと思うのかを京に伝えることができれば。
「俺、もうその辺りからあまり記憶がないんだけど、俺が過呼吸になったときの冬樹君の顔は本当に焦ってたと思うんだ。それで、京が駆けつけて、京の後ろに冬樹君が立ってたときも……ずっと震えてて、泣きそうで、俺はそれを見ていられなかった」
自分が見て感じたことをそのまま告げた。
結局冬樹君が僕を詰ったことに変わりはないが、それでも、そこに悪意だけではない何かがあったのだと思いたかった。
「それで? 理由があれば、間宮は綴のこと傷つけていいってこと?」
「そういうことじゃ、ないけど……」
「綴が言ってるのはそういうことだよ」
京はため息をつくと腕を伸ばしグッと俺を抱き寄せた。あまりに強く抱きしめられて、少し苦しい。
「綴がもっと泣いて、怒ってくれれば、俺のこの気持ちもどこか収まりがつきそうなのに」
京は俺の肩に頭をのせて、掠れた声で呟いた。
「綴は強いな……」
それは全く違うのに、なぜだか京の言葉に返すことはできなかった。
心の中で、「そんなことないよ」と思う。
弱いから、冬樹君にあんなこと言われたんだから。
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