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「ほら、それより竹内さん。止まってるうちにタルト!」
佐々木は右手のタルトの包装を破ると、半分ほど顔を出したそれを俺の口元に持ってきた。
仕方なくだ。これは仕方なくだが、折角開けてくれたので 仕 方 な く 受け取ろうとすると、
シャイなタルトはすぐに佐々木の元へ帰ってしまう。
おっさんで遊ぶな悪ガキめ。
「おい……。」
「俺が食べさせてあげますから、竹内さん運転集中してください!
ぶつかったら大変!」
前を見れば既に信号は変わっており、車間距離は随分広がっていた。
再び口元に舞い戻ってきたタルト。これで引っ込めたら今すぐ放り出してやるからな。
羞恥から来る顔の熱を自覚しながらも、控えめに口を開く。
と、
今度こそチーズの甘い香りが広がった。
口を閉じれば、くど過ぎない濃厚なチーズの甘みとタルトの食感が広がり、それがまた絶妙にマッチする。
あぁ、牧場が……ではなく、赤いマルにKの字が入ったロゴが見えるぞ。
そうそう、この味だ。
懐かしくて、久しぶりの幸福感。
視界が悪い中、人を乗せるという緊張感から無意識のうちに眉間にしわが寄っていたようで
強ばった顔の筋肉がほわんと力を抜いた。
…気がする。
「…っはは、やべ………。
や、やっぱ竹内さんチーズタルト好きだったんスね!よかったー!」
「??」
どういうことだ?
はじめに何か呟いた気がしたがそれは置いておくとして。
タルトが好きそうな顔にはどう見ても見えない気がするんだが。
どちらかといえば俺は、コーヒーゼリーや無糖ヨーグルト顔だと思う。
ってどんな顔だそれ。
「いやー、だって竹内さん飲み物買う時絶対デザートコーナーの前通るし。
そのたびにコレ見てたら好きなのかなーとも思うっスよ。」
「…そんな恥ずかしいことをしていたのか、俺は。」
こればっかりは、完全に無意識だ。
自分でも気が付かないうちに目で追っていたとは何ていやらしい奴なんだ。
買いたきゃ買えばいいだろうが。
そう思われていたに違いない。
「あ、でも他の人は多分気付いてないっスり
俺が竹内さんの事見てただけなんで!」
俺の事を見ていた…か。
昼にも聞いたような台詞だ。
そして昼にも同じ事を思った。
何だこの違和感は…、と。
勿論、佐々木の見ていた発言は法月のような思考からではないだろう。
俺が行く時間帯なんて客はほぼ居ないから、暇潰しにでも俺の動きを見ていたとかそんなところだろう。
……それかアレか。
俺が毎日マスクで顔を隠しているから不審者を疑い警戒していたのか。
常連客に何と失礼な。
…とでも冗談を言ってやれば、この車内の空気はもっと和やかになるだろう。分かってはいる。
だが生憎俺は口下手なのだ。
思った事をつらつらと頭の中で唱えてはいるが、声に出して発信するのはその中のごく僅か。
1割にも満たないと思う。
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